
インタビュー
駄菓子の本質。子どもたちの「憧れ」と、世代をつなぐ「懐かしさ」
カンパイラムネ、プチプチ占いチョコなど、子ども向けの駄菓子を多数取り扱う「チーリン製菓」さんにインタビューしました。

書き手:山下
本店オンラインストアの特典でお届けしている「カンパイラムネ」や「うんチョコ」。
これらをつくっているのが、大阪・八尾市の老舗お菓子メーカー「チーリン製菓」さんです。
本編では、チーリン製菓さんの歴史やモノづくりの哲学を中心にご紹介しました。
この番外編では、そこから一歩踏み込み、駄菓子そのものが持つ魅力や、具体的な商品に込められた工夫・試行錯誤を通じて、チーリン製菓さんの新たな一面をお届けします。
本編をご覧になっていない方でも楽しんでいただける内容になっていますので、ちょっと長いですが、ぜひ最後までお付き合いください。
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駄菓子は、子どもの不自由に寄り添う存在
──駄菓子って、ビールとかタバコとか、子どもたちができないものをモチーフにされてるのが多いなと思うんですけど、何か理由があったりするんでしょうか?
福井さん
まさにね、大人が持ってるものをモチーフにすることが、駄菓子のひとつのキーワードになると思っています。
何でかっていうと、時代背景的に、昔は日本でも戦争があって、国自体が元気をなくした時代があったじゃないですか。
その後、高度成長期になったときに、大人がすごい力を発揮して仕事も遊びもガンガンやっている姿を子どもたちが見て、大人に憧れを抱いたんじゃないかなと思うんですよね。
福井さん
「早く大人になりたい」とか、「大人の持っているものを持ちたい」っていう欲求を、子どものときに叶えてあげたいっていうところから出たんやと思いますよ。
──価格や商品自体もそうですけど、子どもの不自由さに着目して、寄り添っているようですね。
「おうちで駄菓子屋さん」は、ちょうどコロナ禍に誕生した商品だと伺いました。まさに子どもたちが不自由さを感じるような時期で、そこにアプローチした商品のように感じるのですが、何か背景があったりするのでしょうか?
福井さん
後付けでかっこよく言えばそんな感じです(笑)。
でも実は、「おうちで駄菓子屋さん」ができた背景については、コロナ以前からいろいろ感じていた部分の影響も強くあったりします。おうちで駄菓子屋さん。
「おうちで駄菓子屋さん」に込められた、コロナ以前からのビジネスの模索
福井さん
弊社もですね、問屋さんを通してお菓子売り場で売るっていう普通の商売が、昔に比べたらなかなか儲かりにくい現状です。
他の商売も考えていかなあかんということで、問屋さんを通さない商売、要は、うちの技術を使って、元々お菓子とは関係ないところにお菓子を使ってもらう商売を第2の柱としてやってきたんですよ。
ところが、この部分がコロナで大打撃を受けました。
感染抑制のための外出自粛や営業自粛によって、イベントが中止になったり、お土産物が売れなくなったり、言うてみたら、第2の柱で考えてた部分がコロナによって売上ゼロになってしまったんですね。
──え・・・
福井さん
ECで、消費者の方に直接販売したいよねっていうのは、コロナ以前からずっと思っていたんです。
だけど、我々が主力にしてる駄菓子は、単価が低いために直販に乗りにくい。20円30円の商品を、運賃とかそれ以上のお金を出してまで買うかというと、買わないですよね。
だから、本当はECでも販売をやりたいけども、なかなかできないっていう状況でした。
「まずは、できることからやっていこう。もっとうちのことを知ってもらうために発信していかなあかんよね」ということで、コロナ以前からSNSを始めていたんですね。
そこで、フォロー&いいねをしてくれた方に、各問屋さんに見本としてお配りしている、駄菓子の詰め合わせをプレゼントしたんです。
福井さん
そしたら、皆さんすごく喜んでいただいて。
問屋さんにお配りしてる「商品見本」が、消費者の方にとって魅力があることがわかりました。
それをきっかけに、「そうや、これ喜んでくださるんやったら、お菓子の詰め合わせを直販で売れば、ECでもいけるかもわからない」と繋がっていったんです。
「おうちで駄菓子屋さん」の企画は、
(左)小菅さん、(右)福井さん、
この場には不在の山本さんの3名で行われました。
福井さん
ああいう組み立て式の屋台のもので、お菓子の詰め合わせをやれば、孫に送ってあげたいというおじいちゃんも喜んでくれる。コロナ禍で、どこも出れない子どもたちも喜んでくれる。
我々も初めて、ECでお客さんに運賃を払っていただいても喜んでいただけるような駄菓子を作ることができました。全部が重なって、あの商品が生まれたわけなんですよ。
──いろんな制約の中で、ユニークな商品ってできてるんですね、すごい・・・
福井さん
うん、やっぱり制約はいろいろありますよね。
「うんチョコってなに…?」制約の中でのユニークな発想と試行錯誤
福井さん
昔はね、問屋さんを通して、1万円の注文が1万件あるような時代だったから、どれくらい売上があるかを事前に読めたんですよ。
だから金型を起こすのがもう全然苦じゃなくて、うちはプラスチック容器に入ったお菓子を作るのが得意だったんです。
だけど、先ほども言ったように、問屋さんを通した商売が難しくなった。お菓子売り場のある組織小売業さんに採用されるかどうかで売上が全然違うんだけど、それが全く読めなくなって初期投資しにくくなったんですね。
それで、最近はプラスチックじゃなくて、初期投資が少ない紙のパッケージが増えてきたんですよ。
──単価の低い駄菓子は、コストの制約がより厳しいですよね。
そういえば、「うんチョコ」も紙のパッケージですね。そしてやっぱり、とてもユニークなお菓子です!
うんチョコは、かわいい動物型の紙箱にチョコが入ってます。
おしりから出して食べるからうんチョコ?
おみくじ付きで、運気アップするからうんチョコ?
福井さん
実は、「うんチョコ」ができるまでに、前モデルみたいなやつがいろいろあるんですよ。
企画の山本が、おじさんが土下座をしているパッケージを作ったんですね。
──え!!!!!
ほんとだ、うんチョコだ・・・
福井さん
当時、食品偽装のニュースが世の中に多くて、テレビを見たら、いろんなところでみんなが頭を下げて土下座してたり、そういうのがすごい多かったんですよ。
ただ、これはちょっと……。子どもにはよろしくないだろうっていうことで、動物に変わって、動物やったらかわいらしいねって。そりゃもちろんそうなるよね(笑)。
「うんチョコ」ができたのは、うんこドリルが流行る前なんです。なので、店舗さんに「うんちを題材にしたようなお菓子なんてけしからん」と言われて採用してもらえなかったりとか、そういうような話もありました。
──だけど、そこはもう個性として守って。
福井さん
はい、そうです。だから、いきなり商品ができたわけじゃなくて、それまでにいろんなことをやっては失敗を繰り返して形になっているのが事実ですね。
ブームは追わない。「ロングラン」戦略の意義
──新商品って、どんどん作られているんですか?
福井さん
いや、毎年新商品を何品とか、そんなレベルでは全然出てないです。1回販売したら長ーくっていうのがうちのやり方ですし。
──息の長い商品っていうのはどういったものが多いんですか?
福井さん
一般受けを狙ったりとか、そういう小細工でやったものは続いてないですね。
例えば、ギャグが流行ったときにそれに合わせて作った商品であるとか、ちょっと有名になった芸能人がおられたら、その方をモチーフにして作ってみたりとか。
そういうものは割と早くに無くなってしまって、ブームに乗っかってやったみたいな作り方で今でも続いてるものってないもんね。
小菅さん
はい。一番新しい商品は、2021年発売の「オールシーズンチョコ あまおう苺味」です(2025年現在)。
小菅さん
休憩にいかがですか?
──いいんですか、ありがとうございます!
定番の「オールシーズンチョコ チョコレート味」。
1985年発売のロングセラー商品。
包み紙にハートがあったらラッキー!
福井さん
これなんかもね、濃厚なチョコレートとか、口どけのいいチョコレートを求めてる方からすると、美味しくないとか、子供用、安物のお菓子みたいな言われ方をするんですよ。
でも、これはそういうチョコレートではないんです。ポリポリ食べれるとか、濃厚なものは1、2粒食べたらもういいわって思うけども、これやったらもう手が止まらなくて、みたいな商品なんですよね。
── 確かに、流行とかじゃない。
福井さん
ロングランで行った方が、うちも喜ぶし、充填・加工をお願いしている加工所さんも、納入してる資材屋さんも、仕事がずっと長続きする方が喜ぶんですよね。
みんなが喜ぶのは、少なくてもいいから、ずっと長く続けて売っていくっていうことだったりするので、そういう商売のやり方になってるんです。
──それを実現するために、ちょっとくすぶってる商品には手を入れたりするんですか?
福井さん
「うんチョコ」なんかはね、邪魔くさいけど、年に3回パッケージデザインを一新してるんですよ。
12種類のパッケージが、定期的に変更されます。
福井さん
ちょっとでもお客さんが飽きないように、デザイン変えてみようかとか、背中にもう1個乗るようにしてみようとか、ちょっとした改良であったり工夫を続けてるんです。
「懐かしい」が合言葉。世代・地域を超えて、人と人をつなぐ
──チーリンさんのお菓子を見ていると、お腹を満たすだけでなく、楽しんでほしいとか、ほっこりしてほしいというのが伝わってきます。
どこか懐かしさを感じるようなデザインのものが多いですよね。
福井さん
意図してやっているわけではないんです。
ロングセラーで昔からあるお菓子が、変に今風のデザインにリニューアルしてるわけでもないので、たまたま今見たときに、なんか落ち着くなぁっていうだけのことだと思いますよ。
──懐かしいものってなぜかすごく惹かれますよね。なんでなんでしょうね。
福井さん
うーん。みんな駄菓子見て「懐かしい」って言うんですけど、実際のところ、本当にその人がそれを買ってたかどうかって分からない。
雰囲気で懐かしいって思ってる部分はあるはずなんですよ、正直なところ。
福井さん
小さい時、何か買われてました?
──私は福岡出身なんですが、チーリンさんの「カンパイラムネ」はもちろん見たこともあるし、食べたこともあります。
──住んでる地域が違っても、共通の懐かしい体験があるっていうのも、駄菓子の良さかもしれないですね。
福井さん
お菓子って面白いもので、問屋さんの中でも、地元しか行かない問屋さんもあれば、全国を出張しながら回る問屋さんもあるんです。
駄菓子は比較的取り扱ってもらいやすい商材ということもあって、私たちの企業力以上に日本全国に商品が行き渡ってるっていうのはありますね。
──日本全国にファンがいる状態ですよね。
お菓子はどんな人との会話でも話題に上げやすい、会話が広がりやすい印象があります。
福井さん
いやおっしゃる通り、お菓子もらったらみんなそれで笑顔になりますから。ひとつのコミュニケーションツールではあるんですよね。
特に駄菓子は、ほとんどの方が幼少の頃に欲しいものを自分のお小遣いで買った成功体験があるので、世代を超えたコミュニケーションツールになっているのかなと。
おばあちゃんが「これ懐かしい」と言ったお菓子をお母さんも知っていたり、お孫さんが「今でも売ってるよ」って答えたりとか。三世代に渡って会話の軸になるっていうのはなかなかないと思うんですよね。
遠足のおやつは何を買ったとかね。いくらまでかというのは時代とともに変わってますけど、その中で自分がいろいろ考えて買ったっていうのは、みんなやってる体験じゃないですか。
──あぁ~、めちゃくちゃ覚えてますね。
福井さん
だからね、木村石鹸さんのお客さんとか、大人の方が見ても懐かしいっていうのはやっぱり通じるんやと思いますよ。
──幅広い世代の方が見ただけでほっこりするってすごいことですね。
そして、そこをチーリンさんがずっと守ってくれている。もしどこかで途切れてしまうと、私たちが日常の中で、懐かしい気持ちになる機会が少なくなってしまいますから。
福井さん
商売をやらせてもらいながら、世代共通のツールのひとつとして認識いただいているいうのは、私たちもひとつのプライドになる話ですね。
そういう意味でも、駄菓子を今後も残していきたいなと思っています。
カメラ:木村石鹸スタッフ 林
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