
インタビュー
【前編】きれいで、清潔で、きもちのいいお風呂を沸かすー小杉湯の原点
小杉湯の三代目平松佑介さんに取材させていただきました
2024年4月、ストリートカルチャーと若者文化の発信地である原宿に誕生した「ハラカド」。
その中には老舗の銭湯「小杉湯」の看板がありました。
今回は昭和八年から運営されている高円寺小杉湯についてや、
原宿に新たに誕生した小杉湯原宿についてなどを、小杉湯の三代目平松佑介さんに取材させていただきます。
小杉湯さんと木村石鹸との関わりはさかのぼること7年。
現在では、12/JU-NI(ジューニ)やSOMALI(そまり)をお取扱いいただいています。
【前編】では、家訓である「きれいで、清潔で、きもちのいいお風呂を沸かす」という言葉についてや、平松さんが考える「銭湯の役割」について、お話をお伺いしました。
書き手:にしうら
平松佑介(ひらまつゆうすけ)・小杉湯三代目 株式会社小杉湯代表、株式会社ゆあそび副代表昭和8年に創業し、国登録有形文化財に指定された老舗銭湯「小杉湯」の三代目。2020年3月に「小杉湯となり」、2024年4月に「小杉湯原宿」を開業。モットーは「きれいで、清潔で、きもちのいい」お風呂を沸かすこと。 |
きれいで、清潔で、きもちのいいお風呂を沸かす
——今日は小杉湯原宿にお邪魔させていただいていますが、実は去年の出張で、高円寺の小杉湯のお風呂に入らせていただきました。
高円寺の小杉湯は、創業以来一度も建て替えられたことがないと伺いました。
それでいて、お風呂の中はとてもきれいで、そこに小杉湯らしさを感じるのですが、何か特別なこだわりや理由があるのでしょうか?
平松:小杉湯は昭和8年創業で、今年で92年目になります。
東京型の宮造りの建物で神社仏閣のような銭湯で、一度も立て替えることもなく、そのおかげで、国登録有形文化財にも指定され、これから50年後、100年後もこの建物を守り続けたいというのが一番の想いですね。
高円寺の小杉湯さん。建物が神社みたいでかっこいい。
建物に小杉湯らしさを感じていただけるのも、ずっと変わらない場所で、変わらない建物でやっているというところに尽きるなと思ってます。
銭湯の"きれいさ"みたいな部分でお話しすると、僕のおじいちゃんの家訓が「きれいで、清潔で、きもちのいいお風呂を沸かす」というのがあって、これが一番経営においても大事な部分で、その毎日を積み重ねていくことが大事だと思っています。
ずっと変わらない建物でやっていている中で、きれいで清潔できもちのいいお風呂というのを感じてもらえていたとしたらすごい嬉しいなと思います。
——変わらないものが、人を惹きつけているんですかね。
高円寺の小杉湯は、多い日で1日に1000人ほどが訪れると聞きました。
若いお客さんも多い印象ですが、"変わらない"中にも新しさがあるように感じます。
運営されていて、お客さんがどのような部分に惹かれていると感じますか?
平松:小杉湯はサウナがなくて、温かいお風呂が3つあって、水風呂があって、富士山の絵が書いてあって、昔ながらの東京型の銭湯なんですよ。
その中で、若い人が来てくれています。
それは、営業時間が平日は14:00〜深夜25:30、土日は朝8:00〜25:30と、長時間営業していることも大きいですね。
そして、ハンドタオルは泉州タオルを使っていて、バスタオルはイケウチオーガニックを使っていて、それを木村石鹸のSOMALIで洗っていて、シャンプー、コンディショナー、洗顔、クレンジング、化粧水、乳液は花王さんのものを置いていて、ドライヤーがパナソニックという状態があることが大きいなって思っています。
小杉湯さんにあったPOP
小杉湯は、日常の中でいつでも手ぶらで気軽に来れる状態というのもすごく大切にしています。
時間も、土日だとスタッフの稼働のスタートが朝5時からで、最後は深夜2時半ぐらい。
だから、毎日本当に長い時間きれいにして清潔に気持ちのいいお風呂を沸かすっていうのを積み重ねているんですけど、若い世代が来てくれる大きな理由だなという気がします。
それこそ、僕も原宿で仕事をして終電で帰ってきて、高円寺でお風呂に入れるんですよ。
「なんて便利なんだろう!」って思います。
——行きたいときに、手ぶらで行っても空いているという信頼はやっぱり大きいですよね。
「きれいで、清潔で、きもちのいいお風呂を沸かす」という言葉が何度も出てきましたが、小杉湯さんが"掃除"へのこだわりをとても大事にされているのが伝わってきます。
平松:やっぱり、「家訓」だからずっと大切にしてきたというところですよね。
原宿にお店を出したり、色んな取り組みはしているんですけど、行き着くところは「きれいにする、清潔にする、きもちの良いお風呂を沸かす」ということだと感じています。
小杉湯はメーカーではなくて「場所」であり「銭湯」なので、同じ場所で続けていく。
100年先に向けて掲げる壮大なビジョンじゃなくて、今日清潔なお風呂をわかすというほうがはるかに大切で、それを共通の想いにしていくことが大切なんです。
きれいにするっていうことは本当に平等で、努力をすればちゃんときれいになるし、1日くらい手を抜いても分からないけど、積もって行ったら汚れとしてでてくるから、
本当にその日みんながいかにきれいに掃除するかがすごい大事だと思ってます。
小杉湯のお風呂を掃除するスタッフの方
——掃除って素直ですよね。やればやるだけ結果がでるというか。
そういったところが掃除の面白い部分ですよね。
平松:昔木村石鹸のスタッフさんとか木村社長とかが来てくれて、「小杉湯を洗う」っていう企画をやったじゃないですか。
その時は高円寺の営業が深夜1:30に終わって、そのあと2時間掃除をするという流れだったんですよ。
朝は朝で、パートの方が来てくれて脱衣所とかを掃除するという風にやっていました。
でもそれが今、朝にスタッフが来て、オープンまでに掃除するという形に全部1個にまとめたんですよ。
やっぱり、お客様が来るのをゴールにして掃除するのと、閉店に向けて掃除をするのとでは、気持ちがちがうかなと。
——お客様のために準備するぞ!という気持ちが入りますね。
「小杉湯を洗う」はまたぜひ実施させてもらいたいです!
平松:ぜひぜひ!今高円寺だと朝7時から11時ぐらいまでやっています。
「小杉湯を洗う」の記事、実は貴重なログになっていて、当時の掃除の状況がわかるんですよ。
例えば、うちのスタッフと見ていてびっくりしたんですけど、カラン一つとっても今のほうがきれいなんですよ。
鏡もくもっているな・・って。あとこの排水口ですね。今だと絶対こんなに汚いことない!
今の小杉湯さんのぴっかぴかの排水口
もう一度、木村石鹸さんの商品を総動員させて大掃除みたいなことしたいんですよね。
——ぜひぜひ、高円寺でも原宿でも!
銭湯の役割
——きれいに掃除されていて、夜中まで開いている銭湯という話がありましたが、銭湯の役割として公衆衛生としての役割だけでなく、機能以外の何かを求めてお風呂に入りにきていらっしゃる気がします。
実際運営されている中で銭湯の役割についてはどのように考えていますか?
平松:日本って調べると衛生っていう言葉がいっぱいあるんですよ。
公衆浴場法の一般公衆浴場の銭湯の定義だと、「地域の日常生活において、保健衛生上必要なものとして利用される施設」とあります。
業界の中だと、環境衛生とか、生活衛生とか、公衆衛生っていう言葉が良く使われる。
言葉がいっぱいあるんだなっていうのを感じるんですけど、僕は公衆衛生っていう言葉を使うことが多いです。
広い意味だと、人々の生活を守るのが公衆衛生。
生活インフラとして、高円寺の人や原宿の公衆衛生を支えて守る場所っていうのは変わらないなと思います。
もちろん、戦後は体を清潔にするという意味合いが大きかったけど、今は精神的な面かもしれない。
高円寺だけじゃなくて、原宿でも半年やっていて、本当に常連さんが根づいてきているんですよ。
2024年4月にオープンした「小杉湯原宿」
原宿のチカイチっていうのは公衆浴場法で言うと、「一般公衆浴場」と「その他公衆浴場」に分かれていて、「その他公衆浴場」に分類されちゃうんですよ。
「一般公衆浴場」っていうのが、さっき話した保健衛生上必要なものとして利用される施設で、「その他公衆浴場」っていうのが、いわゆるスーパー銭湯とか民間の公衆浴場ですね。
高円寺は「一般公衆浴場」に分類されていて、僕らは街の銭湯が大事だと思っているので、原宿も「一般公衆浴場」でやりたかったんですね。
でも、地下なので「太陽の光が入らないから」という理由で認可がおりなくて。
——!?そんなことで!
平松:本当にそうなんですよ!
50年前に作られたもので、地下で銭湯をつくるなんて考えられていなかったんでしょうね。
その後も新規で作られる例がなかったので、規制が変わらなかったんです。
ただ、「その他公衆浴場」は民間で多様化しているので、そういうのがないんです。
だから、本当は東京都が決めた550円じゃなくてもいいんですけど、
原宿は550円で営業しているんですね。
東京都だと、銭湯が400件くらいあって「共通入浴券」っていうのがあります。
10枚がセットになっていて、一回550円が500円で入浴できるというものなんですけど、
それはここでは使えないんですよ。
でも、回数券の要望が多かったから自分たちで作ったんですよ。
すると、1ヶ月で200セット売れちゃって生産が追い付かなくなっちゃって、
売り切れが続いちゃったんですよ。
この回数券は、原宿だけのものなのでここに10回来ている、
毎日来ているような人たちがそれだけいらっしゃるかっていうことを考えると、これはほんとうにけっこうびっくりしちゃったんですよ!
だから、さっき話していた公衆衛生っていう、生活を守るっていう位置づけに原宿もなっているなと感じています。