
インタビュー
【THE SHOP前編】「定番」が描く未来――THE創業の原点とブランドビジョン
THE SHOPの米津雄介さんにインタビューさせていただきました。 【前編】では、THEの米津さんにTHEの創業の原点やブランドビジョンなどの哲学についてと、木村石鹸との出会いについてお伺いします。
東京の一等地にある、渋谷スクランブルスクエア。
その中には、THE SHOP SHIBUYAという「定番」をコンセプトにした商品を取り扱う店舗があります。
THE SHOPは、good design companyの水野学さん、中川政七商店の十三代 中川政七さん、PRODUCT DESIGN CENTERの鈴木啓太さん達と、今回お話をお伺いする米津雄介さんで立ち上げたTHEが運営する店舗で、彼らが考える最適なオリジナル商品とともに、選び抜かれたプロダクトを取り扱っています。
THE SHOPでは、木村石鹸の12/JU-NI・SOMALIなどをお取扱いいただき、新しくTHEさんで発売されたThe Bath Cleanerは商品づくりから伴走させていただきました。
【前編】では、THEの米津さんにTHEの創業の原点やブランドビジョンなどの哲学についてと、木村石鹸との出会いについてお伺いします。
後編:https://www.kimurasoap.co.jp/a/c/journal/l/interview/theshop2
書き手:にしうら
米津雄介(よねつ ゆうすけ) THE株式会社 代表取締役/プロダクトマネージャー 東京造形大学卒業後、文具メーカーにて商品開発とマーケティングに従事。2012年に「THE」の立ち上げに参画し、全国のメーカーを回りながら、商品開発・流通施策・生産管理・品質管理などプロダクトマネジメント全般と事業計画を担当。THEではD&AD Awards 2016、ADC Awards2020など受賞。共著に『デザインの誤解』(祥伝社)。東京造形大学非常勤講師。 |
THE創業の原点
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店舗で取材がしたい!と無理を言ってしまったにもかかわらず、ご快諾くださいましてありがとうございます!
お店の佇まいからも、THEさんの哲学が伺えるのですが、まず創業の経緯やブランドの成り立ちについてお話をお伺いしてもよろしいでしょうか。
米津
こちらこそありがとうございます。
まず、僕らが考えていることとしてTHEは10年20年使い続けられる定番品を作って売る、というブランドでありたいなと思っています。
創業の経緯からお話しすると、前職のことも絡んでくるのですが、僕はもともと文房具メーカーにいたんですけど、文房具って使い捨てられてしまうことが多いんですね。
僕自身(文房具メーカーでは)商品企画として10年近くやってきたんですけど、自分が作ったものがどんどん意に反せず捨てられてしまうという経験から、そういうことが起きないブランド、もしくは会社ができたらいいなという思いで立ち上げました。
そんな中で「なんでみんなモノをすぐに捨てちゃうんだろう」ということを考えたときに、実はモノを最後まで使い切るって人は少ないなと思ったんです。
例えば、僕らも扱っている木村石鹸さんの液体商品とかでも、最後まできっちり使い切って、詰替え用に変えてっていう方は、かなりヘビーユーザーじゃないですか。
でも実際は、詰替えにいくまでに駄目にしちゃったり捨てちゃったりとかもありますよね。
道具や洋服もそうですけど、飽きたりとか使わなくったりとかそういった意味も大きいと思ったんですね。
僕はデザイン畑出身なので、デザインで解決できることも結構あるんじゃないかなと思って、飽きの来ないデザインが実現できれば、少しでも長く使っていただけるようになるんじゃないかな、と考えたことがブランドの成り立ちです。
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前職での経験がきっかけになって「THE」を創業することになったんですね。
ブランドビジョンとして「最適と暮らす」という言葉があると思いますが、こちらも気になります。
どういった意味が込められているのでしょうか。
米津
実は、会社を作ったときに一番最初に決まったのは、「THE」というブランドコンセプトなんですよ。
THEというのは、英語の定冠詞の”THE”ですね。
僕らは長く使っていただけるものや、飽きがこないものを「定番」と呼んでいて、例えばLevi’s 501はTHE JEANSと言えますよね。
その定番を扱うブランドとして「THE」というコンセプトでブランドを作りました。
その後、数年経って「会社が何のために存在しているんだ」ということを色んなところで勉強させていただきながら、
もやもや考え続けている中で、ブランドのコンセプトというのはあるけど、会社として目指すものの世界観やテーマが言葉になってないよなというふうに思うようになりました。
それを、何年間かずっと悶々と考えながら言葉にしたのが「最適と暮らす」です。
最適っていうのは何かというと、モノづくりの背景だったり、地球環境とのバランスだったり、使い勝手の良さ、デザインの美しさや気持ちよさみたいなところが、包括的に最適な状態がいいよねという思いを込めてつけています。
その最適と一緒に暮らすためのことを会社としてやっていきたいという思いでこのビジョンを立てています。
つまり、最適と暮らすために、定番を売るお店がある。
どちらかというと定番は手段で、最適と暮らすということを達成するために、定番品として長く使える商品を置いているお店を構えたり、そういう人が増える仕組みを作ったりできたら理想だと思っています。
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地球とのバランスという話も出てきましたが、「これさえあれば他にはいらない」ような商品が揃っていて、奇抜なデザインで飽きられて捨ててしまう、流行に乗って捨てられてしまうということが少ない、というところを意識されていらっしゃることがよく分かります。
米津
これは前職時代の時から感じていたんですけど、社会の仕組みとしてこういうことがあるよねってことがありました。
それは、これから4月になると新学期が始まるじゃないですか。
そうすると新入社員も入るし、小学校に上がってくる子供たちもいて、3月~4月ってめちゃくちゃモノが捨てられるし、買われるんですよ。
要は、モノを新調するタイミングですね。
新入社員として会社に入って、支給された文房具が中古だったら、ちょっと嫌じゃないですか。
なので、人数分買われるわけですが、その裏で使われなくなった文房具たちが捨てられてしまうということにまず違和感がありました。
これはずっと、僕自身も悩みながらやっているところですけど、基本的に今僕らが触れているモノって、何かが何かに形を変えてここに存在しているわけですよ。
今目の前にある楢の木のテーブルも、昔は土に生えていて葉っぱがあったわけですし、プラスチックだって地下から掘り出してきた石油が形を変えたものですよね。
これは僕の勝手な考え方なので正しいかどうかはわからないんですけど、地球全体のモノの質量って大して変わらないと思うんですよ。
変わらないけど、人間の活動によってどんどん何かが何かに形を変えていくということが起きている。
これをやり続けたら、「そりゃあ原材もなくなるよね」っていうことは何十年も前から言われていることですが、そうだよなって。
だからといって、僕らが何ができるのって言ったら、今はまだインパクトが大きいことができているかわからないけど、意識として「長く使うことっていいよね」という考え方や、「長く使うことに気持ちよさを感じる人」の一助になるようなことができたらいいなと思っています。
木村石鹸との出会い
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ありがとうございます。
そんな考えを持っているTHEさんでお取扱いいただいているということが、私もうれしく感じました。
ここからは、THEさんと木村石鹸というところでお話を聞いていただきたいのですが、木村石鹸のことはどのように知ってくださったんですか?
米津
タイミング的にどっちが先だったかわからないんですけど、二つあって・・・。
まず一つが、商品繋がりですね。
THE SHOPは例えば木村石鹸さんと作らせていただいたバスクリーナーのようなオリジナル商品だけではなく、半分はセレクトショップなので、ブランドの直営店のようなものとはちょっと違います。
セレクトショップの要素を入れている理由としては、作る必要のないものは作らないでいいという考えがあって、いいものがあるんだったらそっちを売ったほうがいいわけですよね。
僕らがもうこれは「定番だ!」と勝手ながら思ったものはセレクトしていくスタイルでやっていて、その一環として日々バイヤーたちと探している中で、僕が最初に木村石鹸の商品を知ったのは「自動製氷機の洗浄剤」なんですよ。
まず自動製氷機の洗浄剤のC SERIESブランドが狙っているところが、「ニッチ」ということだと思うんですけど、「あったら助かるんだけどな」っていう生活用品の中で、僕らが扱うような単価のモノのニッチ商材って、マーケットが大きくないから想いがないとできないと作れないと思うんですよね。
それで、めちゃくちゃいいなと思って僕自身使ってたんですけど、その後も同時期にいくつかスタッフが「木村石鹸の商品がいいんです」って持ってきてくれて、じゃあ掛け合ってみようっていうのが一つですね。
もう一つが、僕がどこかの記事で社員が自分で給与を決める、自己申告型給与制度の木村さん(代表 木村祥一郎)のインタビューを見たんですよね。
それを見て、「すごい!」と思って!
僕はモノのことしか考えてないんですよ。
うちの会社は、いい意味でも悪い意味でもプロダクトファーストなんですね。
なので、組織やスタッフのことで今でもずっと悩んでいるんですよ。
そして、木村さんも仲良しの、堀田カーペットの堀田さんと自己申告型給与制度の話をしたら、
「お話し聞けますよ」って言ってくれて、コロナ禍だったと思うんですけど、オンラインで木村さんにお話を聴かせてもらったんですよ。
給与制度の話とか、会社の仕組みの話とかを教えてもらったっていう会が初対面ですね。
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てっきり、最初の繋がりの商品は12/JU-NI(ジューニ)だと思っていたのですが、モノではなく自己申告型給与制度のお話しだったんですね・・!
米津
12/JU-NIの話が出てきたのは、この話を聴かせてもらうときと同時期くらいですね。
うちは僕が入るモノにまつわるミーティングだけでも、月に10回くらいあるんですよ。
まずはTHE SHOPでの商品のセレクト、次に長いタームで見たときの商品開発のこと、あとは短いタームで見たときの商品開発の進捗とかですね。
そのうち何度かのミーティングで、別々の人から12/JU-NIの話が出たんですよ。
まず、うちで一緒に経営をしている中川政七商店の中川さんもそうですし、グッドデザインカンパニーの水野さん夫妻からも話が出ていました。
基本的に液剤ものとか生活ものとか、女性の視点とかお母さんの視点とかが大事だと思っていて、そこは水野さんの奥さんに絶対的な信頼を置いているんですよ。
その水野さんの奥さんが「これはすごい」と言って持ってきたのが12/JU-NIなんですよ。
そして同時に、うちのスタッフたちの中で私の中ではこれが定番なんだっていうモノを紹介する「マイ定番」というコーナーがありまして、このお店の統括マネージャーをやっている大田さんが「使い始めたばかりなんですが、これがいいんです」って12/JU-NIを持ってきたんです。
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12/JU-NIはどちらかというと定番ではない部類だとは思うのですが、スタッフさんの中での定番として紹介くださったんですね!
米津
そうなんですよ。
例えば地元でずっと愛されているキャンドル屋さんがあって、僕の地元では定番なんです!とかね。
同時多発的に12/JU-NIの話が出てきて、そのうえで組織基盤の話もありで全部ほぼ同時期だったんですよね。
多分2020年じゃないですかね。
このお店も12/JU-NIが出てくる少し前に開店しているんですよ。ちょうどコロナ禍の(笑)
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偶然が重なったんですね。
コロナ禍での開店、タイミングとしては難しい年でしたね・・・
米津
当時はそれこそ本当に最悪タイミングで、もう一店舗横浜店は6月に開店なんですよ。
これまで地道にコツコツやってきたんですけど、初めてジャンプしたら崖だったんですよ(笑)
2店舗増やしたので、スタッフも倍になってしまうんですよね。
だから、人の悩みも大きくて、木村さんに話を聞いたり、商品のことも知ったりと、そんな経緯ですね。
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