インタビュー
【後編】木村石鹸とデザイン ~井本さんから見る木村石鹸って?~
12/JU-NI(ジューニ)やC SERIES(シーシリーズ)など、さまざまな木村石鹸のプロダクトを手がけていらっしゃるデザイナー、broom inc.井本さん。 これまであまり深堀りしたことのない、「木村石鹸とデザイン」についてお話をお伺いしました。後編は、井本さんから見る「木村石鹸」とは、という内容です。
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聞き手:にしうら
いつも、そこかし粉や12/JU-NI・ギフト箱など、何から何まで井本さんにお願いさせていただいていますが、その中で一番木村石鹸としても井本さんとしても転機になったと思う商品はどれだと感じますか?
井本
12/JU-NIだと思います。
そもそも12/JU-NIとぼくの関わりは、木村さんからの漠然とした相談からスタートしていて..
「品質・性能重視で開発を進め“すごいシャンプー”ができはしたんだけど…、話題の成分が入っているなどの“売るための特徴“もなければ、石鹸屋なのに“石鹸シャンプー“でもない。どう売り出そう?」という感じでした。粒度が、(前編で触れた)C SERIESの時と似てますね。笑
それで、提案を重ねながら、”優れた性能のモノ”から”商品”へと落とし込んでいったわけですが、その過程で「正直」というパーソナリティを見出したのは、のちの木村石鹸にも影響を及ぼしているんじゃないかな、と。
例えば、「合わない人もいる」ときっぱり断言するとか、リーフレットでは機能だけでなく想いまでを語り抜くとか、ボトルは中身が見えるよう透明にして、開発者個人のサインまで明記するとか、12/JU-NIはいろんな面で「正直」なんです。
でもそれって実は12/JU-NI固有のパーソナリティではなく、木村石鹸が元来持っていたパーソナリティなんですよね。卵が先か鶏が先かって話ですが、たとえば「社訓」にもそうしたパーソナリティが表れていると思います。
ただ12/JU-NI以前では、その「正直」をここまで明確に体現した商品やツールなどの”具体”はなかったので、お客さんにとっても木村石鹸自体のキャラクターを掴みやすくなったんじゃないかな、と。そういう意味で12/JU-NIが、転機だったと思います。
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なるほど。
木村石鹸を通してお客さんに届けるというときに、「正直さ」という雰囲気は読み取ってくださったものの、それでも、12/JU-NI自体はどちらかと言うと言語化しにくい商品だったと思います。
どういったところを考えて、ネーミングやブランディングが今の形になっていったのか、すこし気になっています。
井本
「品質や性能が抜群に良い反面、特徴が薄い」という前提がある中、きちんとお客さんに届くようにはどうしたら?という点は、とても頭を抱えました。
ばんばん広告費を投入できる大手の商品や、すでに高い認知を誇る商品がひしめく市場で、何かひとつ勝算の見込める要素にフォーカスする、というのが小さい会社の戦い方のある種のセオリーと思うのですが、それができない。
いちばんはじめは、「〇〇なシャンプー」のように、なんとか一点突破のわかりやすい価値訴求をこじつけられないかなとも考えたんですが、やってるうちに、それってなんかこのシャンプーの良さを削っちゃう方法だなと。
ちょっと話が脱線するんですが、そうこうしてる時に、ふと思い出したのが「ビートルズ」(笑)
こどもの時に、「レリピーって連呼してるけどこれは何?」「カブトムシたち?」と気になって調べたんですよね。それで蓋を開けてみると、Let It Beの他にもいろんな曲があって、表現の芯みたいなのもあった。これと似たようなことが、その後の人生の中でも何度かあったし、うちのメンバーに聞いてみても既知の体験だった。要は「直感できる”ひとクセ"が、興味のトリガーになる」ってのは、誰しもに起こり得る根源的な体験なんだろうな、と。
話を戻すと、そんなことを思いながら、12/JU-NIの建てつけとして重視したのは2つです。
「”良い”や”すごい”をそれ以上解釈しないこと」と「名前と具体をユニークにすること」です。
「ビートルズ」のように、シャンプーらしからぬちょっと変わった特徴的な名付けをし、「レリピーの連呼」のように、すごい文字量のリーフレットや開発者個人のサイン入りのボトルなど、キャッチーな仕掛けをつくる。それらを"興味のトリガー"とした上で、その世界に入ってくれた人に向けて、誇張や迎合、こじつけのない、正直な情報を語り抜く。
これが、計画段階で目指した12/JU-NIの認知構造でした。
実際にはその後、木村石鹸自体のキャラクターや"老舗の渾身作”的な文脈の訴求がトリガーになってることも多くあり、現在までに認識を段階的に調整しながら並走している感じです。
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「”良い”や”すごい”をそれ以上解釈しないこと」と「名前と具体をユニークにすること」というところから、今の12/JU-NIが出来たんですね。
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12/JU-NIなどとは違って、最近で言うとギフト箱や移動販売車などもデザインしてもらっていると思うんですけど、今までにあまりなかった配色というか、ポップなデザインになったのかなって思ったんですけど、これは印象が変わったというところのがあったりしたのでしょうか?
井本
ぼくの中での木村石鹸自体の認識が変わったっていう感じではありません。ぼくの知ってる木村石鹸って、木村さんが4代目社長に就く前後あたりからの木村石鹸とイコールなんですが、100年の歴史を持ちながらも荘厳ってわけじゃなく、ポップというか、チャーミングというか、もともとそういう楽しげな空気感を感じとってはいたんです。
そうした空気をそのまま映してもいいと思えたのが、移動販売車やギフト箱だったというのが一番近い回答ですかね。
12/JU-NIやC SERIESは、やっぱり毎日使うものだから品良く佇んでいてほしいし、機能を誤魔化してるように見えかねない装飾はしたくない。と、もし木村石鹸が1人の人間なら、そういう配慮をするだろうなって。
そんな考えから、商品とそれ以外の媒体の間では、表現を離しました。
とはいえ、それぞれ全く別のブランドが展開してるように映っては困るので、乖離しすぎないようには気をつけています。
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もともと「チャーミング」という印象を持っていてくださっていたんですね。
社長の木村も「チャーミングでありたい」ということはよく言っていることなので、うれしいです!
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あと、井本さんにインタビューするときには絶対聞きたいと思ってた部分があって…
木村石鹸ってとっくみやすいガイドラインみたいなのがない中で、社員自身も「木村石鹸ってこういう会社だよね・・」みたいなのを各自で捉えながら商品を作っている部分があって、井本さんは苦労されているだろうなって思っていて(笑)
どうやって木村石鹸を捉えてブランディングに落としていってるのかなっていうのが入社当初から思っているところで…聞いてもいいですか?
井本
そうですね、これについては、実際のところ、やっぱり大変!って思うことも多いですよ(笑)
プロジェクト毎に、個々の好き嫌いやさじ加減が大いに介在するし、まとまりかけた頃に、やっぱり違うかも?みたいな疑心だって、チーム内外で生まれるわけですし(笑)
内々での考えやすさや効率の面を考えると、何らかの指針があった方がいいとは思う一方で、
「でもね!」って視点もあって…
そもそものブランディングの目的を、お客さんや取引先に対して、自社を「独自のもの」と認識してもらうためだとするなら、結果的にですが、いろんなモノゴトをガチャガチャ放り込んでくスタイルが、もはや木村石鹸の”らしさ”になっている気もするので、”今くらい”がちょうどいいんじゃないかなとも思ったりします。
それに、たとえばですが、Uber Eatsにぼくらが期待してるのは、いつも同じ品質のサービスを提供してくれることで、対応が機械的でも全然いいし、ミスがなく完璧であればあるほどベストだと思うのですが、木村石鹸に期待してるのはそんなことではなく、いい商品と、場当たり的だけど思いやりに溢れた人間くさい気遣いとか、心あったまる雰囲気なんかだと思うわけです。
そういうのって、ガイドラインで縛れることではないし、仮にガイドラインがあったとしても、結局各々が個別に頭をひねると思うんですよね。
という具合に、ぼくの考えとしては、”今くらい”を許容、することをむしろどっちかというと推しています。
ただし、これは全体に限った話で、商品ごと・シリーズごとの方針やクオリティはきちんと確立・担保しなきゃダメとも思っています。
ガイドラインのない木村石鹸を「テント」と例えるなら、商品は「アンカー」で、全体のフレキシビリティを生かすも殺すも、アンカーの強度や打ちどころ次第だと思うので。
「木村石鹸における商品デザイン」とは、そういう役回りも込み込みだと思っていますよ(笑)
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商品もそうですし、何をするにも「関わっている人による」というムラも木村石鹸らしさかもしれません(笑)
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今はもう井本さんが手がけるモノもたくさん出していて
「木村石鹸はガチャガチャしててもいい」という思いもお持ちいただいているということをお話しいただいたんですけど、初めはどう感じていましたか?
井本
木村石鹸と関わり始めた当初、すでにSOMALIと&SOAP(アンドソープ)(※現在は販売終了しています)があったんですが、この両者で比べてみても、コンセプトや表現の方向性が全然違うなって。
それこそ、そのあとC SERIESを一緒につくり始めるって時に、この2つのどちらかに表現を揃えるのか、それともどちらでもない独自路線を進むのか、って2択に対し、ぼくは後者と答えるような提案をしました。どちらかに揃えるとなると、選ばなかった方が”はみ出し者”になってしまうし、今後もそうした問題は起こり得ると思ったので、その時はじめて、今の木村石鹸みたいにいろんなモノゴトが乱立する全体像をうっすらですが予感しました。
そういえば!
C SERIESがほぼ立ち上がったくらいの時に、木村さんに「ブランドの根幹というか指針みたいなのってつくらないんですか?」って、カフェで何気なく聞いたことがあって。
腰を据えてブランディングを進めるって方法じゃなくても、たとえば誰かがディレクター的なポジションに立って、全体のアウトプットの整合性をとった方が良くないですか?みたいな。
その時にたしか今日みたいな「ガチャガチャいろんなことを詰め込んでも成り立つようなやわらかいブランドにしたいんだよね」っていう話になったんですよね。で、不確かだけど、なんとなくわかるなーとも思ったし、同時にぼくが今後携わるならさっき言ってた「アンカー」みたいな役回りを踏まえて並走しようって。
ー
当初は、ブランドディレクターが必要だとは思っていたけど、出てくるものそれ自身が「木村石鹸」を形作っていると考えてくださっているんですね。
ー
わたし自身は井本さんが木村石鹸と仕事をしているところしか見たことがないんですけど、他の会社さんと仕事をするときと違う部分はありますか。
井本
丸投げしてくれるところです(笑)
人によっては、困難!って方もいそうですが、ぼくとしては全然そんなことはなく、むしろありがたい。
「こうしたい」って思いは前もって示してくれるし、こっちに進むと危ないよっていうフラグも立ててくれる。
聞けば、何かしらの情報は持って来てくれるって関係ですし、とてもやりやすいですよ。
ー
そうだったんですね。
他の会社さんと仕事されるときはどういう感じなんですか?
わたしたちは、ぶんなげる方法しかしらないので(笑)
井本
うちの場合、やってることが商品だけに限らず幅が広いってのも一つの理由ですが、会社の数だけ進め方があるといってもいいと思います。
ただ、モデルケースとして、会社というよりぼく個人が、木村石鹸との進め方を布教してることもあり、最近はだんだん他社との仕事でも、丸投げが多くなってきた気が(笑)
カロリー高いけど、食べ甲斐があるな、みたいな(笑)
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そういっていただけて本当にありがたいです(笑)
最後のご質問にさせていただきますが、さっきぽろっとあったんですけど、今の話と反対に木村石鹸のブランドとかを作るときに「これはしないほうが良い」みたいなことって感じていることはありますか?
井本
多分挙げはじめるといろいろあるんですけど、
最近の話だと、固形石鹸のパッケージをいろいろ試してる過程で、仮に価格が高くなったとしても、空気感として「お高すぎる」みたいなのは、やっぱちょっと違うなって話にはなりましたね。
逆にいうと、「隙がある」って木村石鹸らしいと思うんですよ。
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ギフト箱のデザインとかも、ちょっとまぬけな人がいましたね(笑)
井本
あー、そうそう!そういうやつ(笑)
なぜか箱に身体ごと突っ込んでいる人とか、移動販売車で言うとグットラックって名前とかもね。しっかりしてるようでちょっと抜けてるというか、実際にそんなことがあったわけでも、特定の人がいるってわけでもないのに、「隙がある」空気感を伝えるために描いたら、ああなりました(笑)
今日は途中で、ブランドがどうとか、指針がないと大変だとか、いろいろ真面目に話しましたが、こと表現においては、このくらいテキトーというか、肩の力を抜いたくらいがちょうどいいって思ってたりもします。
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褒められているととらえていいんですよね、ありがとうございます(?)
井本さんのお陰で、わたしも木村石鹸についてすこし知れたような気がします。
木村石鹸との出会いから、商品のデザインのお話まで、たくさんお話しいただきました。
改めて、ここまでお付き合いいただき有難うございました!