インタビュー
【前編】木村石鹸とデザイン ~井本さんと木村石鹸の出逢い~
12/JU-NI(ジューニ)やC SERIES(シーシリーズ)など、さまざまな木村石鹸のプロダクトデザインを手がけていらっしゃるデザイナー、broom inc.井本さんに、あまり深堀りしたことのない、「木村石鹸とデザイン」についてお話をお伺いしました。前編は、井本さんと木村石鹸との出逢いについての内容です。
プロフィール 井本拓夢 / 代表取締役・デザイナー・ディレクター 92年愛媛県松山市生まれ。プロダクト→グラフィック→ブランディング、とデザイン領域を"はしご"する中で、手法に縛られない自由な視点と包括的な体験設計に可能性を見出し、現在のbroomの礎となるスタイルを確立、14年 個人で起業。 商品開発やサービス立ち上げなど様々なプロジェクトに携わる。17年 broomを設立、翌年法人化。ブランド戦略の立案から平面・立体のデザインまで、向き合う課題に応じてやわらかく視点を変えながら活動中。20〜21年にはヘルスケアテックminacolor inc.の執行役員/CDOを兼務。受賞歴として、DFAアジアデザイン賞、GOOD DESIGN AWARD、日本パッケージデザイン大賞など。 broom inc. WEBサイト : https://www.broom-studio.com/ |
聞き手:にしうら
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今回は、「木村石鹸とデザイン」というテーマでお話をお伺いしたくて、
井本さんが更さらに人気になっちゃうと困るという気持ちはありつつ(笑)、今日はお時間いただきました。
まずは改めてbroom inc.さんと井本さんについてご紹介いただけますでしょうか。
井本
よろしくお願いします!
まず、会社のことからお話しすると..
broom inc.は、「ブランディング」「体験のデザイン」「商品のデザイン」の3つの領域にフォーカスして活動している会社です。
それぞれ紐解いていくと…
「ブランディング」は、世の中的にも浸透した言葉かなと思うのですが、会社や事業を対象に、他にはない価値を見極め、それを最大化する“仕組みと仕掛け”をつくるってことをしています。最近だと、真珠の大卸やヨガウェアブランドなど、そのコンセプトや顧客体験の見直しからアウトプットまでを伴走していたりします。
次に「体験のデザイン」。
これは、12/JU-NIのリーフレットが、まさにって感じです。"正直に・包み隠さない”という、12/JU-NIからお客さんへのプロミスを体現すべく、とんでもない文章量を注ぎ込んだり(笑)、12という名前にちなんで12面で構成したり、そういう気遣いや工夫、遊びなんかを通して、12/JU-NIを選んでくれた人に気持ちのいい体験をしてもらえたらいいなって。
そんな感じで、その媒体や場所でしか得られない体験をつくるっていうのが「体験のデザイン」です。
同じ考え方で、うちでは店舗や展示など空間デザイン領域も扱っています。
さいごに「商品のデザイン」。
12/JU-NI自体もそうですけど、実際に生活で使う品だったり、最近で言うと公共の場で使われる環境用品と呼ばれるようなものなんかまで、「何を、どうつくり、どう伝えるか?」ってことを結びながら開発を伴走しています。
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めちゃくちゃ幅広いですね・・!
井本
会社のことは、そんな感じです。
ぼく自身の考え方も、わりと会社と連動しているというか、一応創業者なので、むしろ会社の方にぼくの考えが色濃く反映されているというか。
ぼくも会社も「いろいろやる」ってことが原点だったりします。
たとえば12/JU-NIで考えてみると、「髪を本気で良くする、だから正直に」ってコンセプトを打ち立てましたが、その想いを完遂するためには、性能だけじゃなく、毎日使いたいと思えるカタチも必要だし、紙面を添えて伝えなきゃいけないことも山ほどあるし、まだやってないしビジネス度外視ですけど、もしかしたらシャンプーを届けるだけでは不十分で、12/JU-NI専門のヘッドスパなんかがあるといいのかもしれない。
みたいな感じで、"統合された体験でなければ、想いは届かない”っていう考えが根底にあります。
ー
へえ〜。会社と井本さんは連動して幅を広げているんですね。
井本さん自身のルーツみたいなものは何ですか?
井本
んー、ルーツか〜。ありきたりですけど、小さい頃からものづくりには興味がありました。華道教授の祖母の影響で花の絵をたくさん描いてたり、一時期愛媛の山奥の田舎に住んでた時期があったので、山で木を切って何かをつくってたり。
漠然とではありますが高校も建築科を選びましたし、その後はプロダクトデザインについて学びました。
そういえばその時、大阪に住んでたんですよ(笑)
ー
えぇっ!?大阪にいたんですか。
井本
新大阪で家賃3万円くらいの、多分いわくつきの物件に(笑)
大阪ではその後、グラフィックデザインの会社に就職しました。それが20歳の時。
で、今度は東京で、空間・平面・立体を多岐に扱うデザインの会社で働いて、って具合に転々と。
その後、22歳の時に起業して、その頃から現在と近い活動を続けているって感じです。
ー
そうだったんですねえ、なるほど。
井本さんが高校時代の時、建築学科だっていうのはびっくりしました。
次から木村石鹸と井本さんについてお伺いしたいことがいっぱいあるんですけど、
改めて木村石鹸とはどういう感じで出会ったかお伺いしてもいいですか?
井本
起業してほんとすぐの頃に、木村石鹸をネット記事か何かで見かけたんですよ。
その頃はたしか、木村石鹸はちょうどSOMALIが発売された後くらいのタイミングだったと思うんですけど、木村石鹸さんに当時在籍されていた広報のミネマツさんが積極的にメディアに出てて。
発信されてるいくつかの情報を追ってると、「あ、多分木村石鹸さんは、SOMALIだけじゃなくて、その後もいろいろ仕掛けたいと思ってそうだな〜」って漠然と(笑)
それですぐ、勝手にいろいろ提案を持って行ったんですよ。
その提案自体は、言ってみれば”第三者による”お節介”だったので、当然実現されていないんですけど、それがきっかけで面白い!とはなっていただいて、一緒に何かやりたいねってなったのが最初ですね。
ー
どういうところを見て、木村石鹸に連絡してみようという気持ちになりましたか?
井本
今後いろいろ仕掛けそう、って勝手に思ったこともそうなんですけど、
その源流には、やっぱり高い熱量があったと思うんですよね。
それが記事を通してでも伝わってきた。
ぼくとしても、起業したてとはいえ、どうせやるなら、仕事のための仕事じゃなく
熱い人と熱い場所で仕事がしたいと思っていたので、そこは大きかったかな、と。
実際話してみても、そこがやっぱり合致したなって。
ー
お互いにタイミングとモノづくりに対する熱量が合ったんですね。
そのあとすぐ一緒に仕事することになったんですか?
井本
あ、いや、全然そんなことないです(笑)
数か月に一度くらいの頻度で、ちょっとしたクリエイティブの相談なんかを受けながら、
社長の木村さん、ミネマツさんと連絡を取りつつ、野望を語るみたいな(笑)期間が1年くらいはあったかな。
ー
そうすると、実際の木村石鹸との大きな関わりって言うとC SERIESの立ち上げになるんですかね?
井本
そうですね。
その1年くらいが経った頃に、木村さんから「そういえば歴戦の品々があるんだけど、これどうにかなんないかな」って相談があったのが、C SERIES立ち上げの最初です(笑)
ー
雑だなあ~(笑)
井本
「こういうのもあるし、ああいうのもあるし、体裁を揃えるとそれなりのものにはなると思うんだよね」っていう話と実例を受けて、そこから、ニッチなアイテムだけを集めて”こういう体裁”にしましょうっていう提案をしました。
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C SERIESは、悩まれませんでしたか?
井本
出来上がったものを見ると、すごく簡単そうに見えると思うのですが、行き着くまでは結構悩みました。
木村石鹸のニュースタンダードとして装いを改めるのはいいとして、
なんでもかんでもその中に入れればいいっていうルールなしの状態では、ただかっこいいってだけの商品になっちゃうなって。
そこで“ニッチな用途の商品に限る”っていうラインナップ上の縛りを設けたんですよね。
その一方で、コンセプトができてからは組み立てやすかったというか、
既にモノは存在していた状況だったので、あるものをセレクトしていけばいいわけで、感覚的には0→1って感じではなく、やっぱりリニューアルです。
そういえば、初期の頃は、「この商品はそう⇆ちがう」ってセレクトにも携わってたんですけど、ラインナップが5個くらいになった頃には、もうそんなやりとりをせずとも、木村石鹸サイドから自ずと「これをCシリーズに入れよう!」ってドンピシャなものが挙がってくるので、
仕組みとしてもC SERIESの建て付けは上手くいってるなあ、よかったなと、今思いました(笑)
これも思い返すとって話ですが、
C SERIESだけでなく、12/JU-NIやそこかし粉でも、何か考え始める前に、モノがいつも先にあるんですよ。
それが、完成しているものなのか、試作中のものなのかは置いておいて。
その上で、ここからどうしようっていう段階で相談いただくことがほとんどでしたね。
どうするのがこの商品にとっていいのかっていう思案を経て、モノへフィードバックされることもありつつ、商品化の一手目からモノがあるのは、生産能力を持つメーカーの強みだなと思います。
そんな具合に、「できたモノをどう届けるか」から考え始めるのが、
木村石鹸とぼくとの間でうまくはまっているやり方とは思いつつ、
個人的には、「逆」もやってみたいと思っていたりはします。
「〇〇を届けたいから、〇〇をつくる」っていうやり方というか。
木村石鹸製品の性能や品質然り、技術力は、もう間違いないと思うので、
発想が先にあっても、きっとなんとか実現してくれると信じています。
ここまでは、井本さんのルーツについて・木村石鹸との出逢いなどについて語っていただきました。次回は、木村石鹸のたくさんのプロダクトにかかわってきているからこそ見える「井本さんから見る木村石鹸って?」というテーマでお話をお伺いします。
後編に続く▶▶▶