
くらしの豆知識
生分解性100% の意味をきちんと考えてみる
市販の洗剤では、生分解性が100%、○日間で100%生分解されるから環境に優しいというようなことを特徴としている製品がいくつもあります。どうせ使うなら少しでも環境に良いものをと選ばれる方は少なくないと思いますが、実際どういう意味なんでしょうか。
市販の洗剤では、生分解性が100%、○日間で100%生分解されるから環境に優しいというようなことを特徴としている製品がいくつもあります。
どうせ使うなら少しでも環境に良いものを使おうと考えられる人も少なくはありません。そういう洗剤は、一般の洗剤よりは多少割高ったりはしますが、「環境に良いもの」だから、ということで納得して買われてる、使われている方が多いのではないかと思います。
生分解性が良いには越したことはないですが、こういった製品の多くは、消費者が知らない、そこまで細かいところまで調べないだろう、というところを突いたある種のマーケティング的なテクニックだったりすることが殆どです。
生分解性とは何か?〜なぜ、生分解性が重要になったのか?〜
生分解とは、物質が土や川などの自然に排出されて、それが微生物などによって分解されて無機物へ分解されることを言います。生分解性が高ければ、それだけ環境への負荷も低くなります。
1960年、全自動洗濯機が普及し、いわゆる「合成洗剤」の使用量が飛躍的に伸びた時に、合成洗剤に含まれる「分枝鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム」(ABS)や「リン酸」などが影響して、河川が汚れる、魚が死ぬなどの事件が起きました。当時は下水処理設備も不十分だったため、生活排水がそのまま河などに流れ、ABSのような生分解性が悪いものや、リン酸のようにプランクトンの餌になってしまうような化学物質が悪さをしたわけです。
そこから、合成洗剤の使用をやめて「石けん」の利用をすすめる運動が始まったりしたことで、合成界面活性剤=環境に悪い、石けん=環境に良い、というようなイメージが敷衍していきました。
中小の石けんメーカーは、合成洗剤、合成界面活性剤を悪とするようなネガティブキャンペーンで不安を煽りつつ、石けんの安全性をことさら強調することで、自社商品のセールスにつなげていくというようなことも行われたので、合成界面活性剤への過剰な不信感を持つ人も増えたのがこの時期です。
いずれにせよ、こういった問題以降、「洗剤」や「洗浄剤」といったカテゴリーにおいて、環境を悪化させないか、環境に負荷をかけないか、という視点が注目されるようになったことは間違いなく、環境や自然などへの関心が高い人たちにとっては、「生分解性」という言葉が、商品の選択基準を語る上での1つの指針になっていったわけです。
生分解性の試験には2通りある〜「一次分解」と「究極分解」〜
生分解性の試験には、JIS法とBOD法の2種類があります。
JIS法は主に一次分解を調べる試験で、合成界面活性剤の試験として行われるものです。一次分解とは、簡単に言うと界面活性作用そのものの失活の度合いを見るものです。
実は、JIS法では「石鹸」の生分解性を調べることはできません。JIS法で定められた試験方法では、そもそもどうやっても石鹸の生分解性は100%という結果になってしまうのです。(生分解後の界面活性剤の定量に使用される試薬と石鹸成分との反応の問題から)
たまにJIS法で石鹸と何種類かの合成界面活性剤を比較して、石鹸の生分解が1日で100%のようなグラフで語られているものがありますが、厳密にはあれは間違いです。意味のないデータです。
石鹸の場合は、「BOD法」という別の試験での調査が必要であり、こちらは「究極分解」を調べる方法です。「究極分解」とは、界面活性剤がその効果を失うという「一次分解」ではなく、実際にその化学物質そのものが、水や二酸化炭素という無機物に変化し、完全に環境中に分解されてしまうことを意味します。
生分解性100%をよく調べてみたら...
「生分解性100%」を謳ってる製品をよく調べてみると、それらは「JIS法」で、「洗浄成分のみ」を調べた、という制限があることがわかります。
JIS法自体が、特定の合成界面活性剤の「一次分解性」を調べるものなので、「洗浄成分のみ」と制限されることは問題ないでしょう。
先ほども説明した通り、JIS法での生分解とは「一次分解」です。
界面活性作用が損なわれる度合を示しているだけで、これが無機物に分解されて、何も環境に影響を与えないような意味ではありません。
しかし、生分解性100%を謳ってる商品で、そんなことを説明しているものは皆無です。いかにも生分解性100%なら、化学成分そのものが溶けてしまって、完全に消えてしまうように思わないでしょうか。
JIS法での「生分解性」で、○日で100%生分解される、という意味は、界面活性作用が完全に損なわれるまで、○日間かかる、という意味でもあります。もちろん、界面活性剤の中には、一次分解の割合が極めて低いものもあるので、最終的に100%一次分解されるということは、決して悪いことではありません。
しかし、ネガティブ側面で語れば、その○日間は、界面活性作用を損なわないので、つまりそれは海や川の生物や環境に影響を与える可能性があるということです。
(もちろん、日本の場合、77%の地域は下水が完備されています。下水が完備されている地域では家庭排水がそのまま河川や海に流れだすことは殆どありません。また、下水処理施設で、処理できない比率も、ごく僅かではあるので、そもそも過剰に「生分解性」をアピールすること自体がどうかという問題もありますが)
JIS法で調べることはできないですが、「石鹸」はそもそも水によって界面活性作用を失ってしまうという性質を持ってます。つまり一次分解という意味での「生分解」は、ほぼ即時、100%生分解されるということになります。
合成界面活性剤の究極分解の率は?
BOD法での、石鹸の生分解性は90%近くになります。
私たちは、自社で製造した「純石鹸(脂肪酸カリウム)」をBOD法での試験にかけましたが、4週間で88.1%という結果がでました。
究極分解という意味においては、70%を超えると易生分解性と言われているので、90%近い数値というのは、非常に高い生分解性を持っていると言えます。
何度も言いますが、これは脂肪酸カリウムという物質そのものの88.1%が、4週間で、水や二酸化炭素などの無機物に変化する割合を意味してます。一次分解という意味においては、「石鹸」は、100%です。水で界面活性作用は損なわれてしまいます。
BOD法で調べた試験した場合、合成界面活性剤であれば、どのような数値になるでしょうか。
例えば、合成界面活性剤としてポピュラーな、「ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)」や、「ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)」などでは約60%、「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)」などは30〜40%という数値になります。
LASなどは石油から作られる合成界面活性剤で、比較的安価に製造でき、また、洗浄力や泡立ちといった洗剤としての基本機能に優れてることから、今も、多くの洗剤で使われている合成界面活性剤ではありますが、生分解性という意味では、あまり良くない性質を持ってるということになります。(ちなみに、LASは強いタンパク変性作用を持ってるので、手肌への刺激性も高いです。)
高級アルコール系、陰イオン界面活性剤と呼ばれるもの、「アルキル硫酸エステルナトリウム(AS)」などは、タンパク変性作用が弱く、手肌、皮膚への刺激性が低いので、シャンプーや歯磨きなどにも使用されますが、この合成界面活性剤などは、石鹸についで生分解性が良いと言われており、環境中でほぼ完全に分解されます。
生分解性100%を謳ってる洗剤の多くは、このASを主洗浄成分に用いてることが多いのではないかと思いますが、では、このASが極めて特殊な合成界面活性剤かというと、そういうわけではありません。
「アルキル硫酸エステルナトリウム」で検索をしてみれば、大手の市販の洗剤も含めて、数多くの洗剤に使われているものだと言うことはわかるでしょう。
このあたりも含めてチェックしてみると、実は、生分解性100%アピールの洗剤や、オーガニック洗剤のようなものが、いかにうまく巧みなレトリックを使ってその特徴を売りにしてるかがわかるかと思います。
photo credit: River_Gauja_2500 via photopin (license)