
インタビュー
【後編】遠回りが、お好きでしょ
「遠回りが、お好きでしょ。 ~儲からなくても面倒くさいことをする~」という題で、新調した移動販売車で地方をめぐる木村石鹸、こだわりの強い個人出版を喜んで受注する藤原印刷、閉業しかけた銭湯(菊の湯)を継いだ本屋の栞日の3社で、その胸中を語り合ったトーイベント記事です。
5月に長野県松本にある栞日さんで、新調した移動販売車 グットラックでの物販イベントと、藤原印刷さんも交えてトークイベントを実施させていただきました。
トークイベントでは「遠回りが、お好きでしょ。 ~儲からなくても面倒くさいことをする~」という題で、新調した移動販売車で地方をめぐる木村石鹸、こだわりの強い個人出版を喜んで受注する藤原印刷、閉業しかけた銭湯(菊の湯)を継いだ本屋の栞日の3社で、その胸中を語り合いました。
前編はコチラ⇒https://www.kimurasoap.co.jp/a/c/journal/l/interview/tomawari2024
書き手:にしうら
ブックカルチャーと出版業界
菊地
藤原印刷の個人出版件数の話を栞日の立場から言うと、藤原印刷は印刷会社で、栞日は印刷された本を販売する店舗で、物流の流れで言うと川上川下なんだよね。
だからこそ分かるんだけど、小規模出版の分野って、作り手が増えて伸びているんですよ。
そうすると、セレクトショップも増えるし、印刷も増える。
藤原
ほんとに、めっちゃ増えてるよね。
菊地
あと、ある程度費用をかけながらいいものを作って、いいものを作ったから人に伝えるっていうことがこの分野において大切だって作り手側が気付いたんですよ。
所説はありますけど、ZINE(ジン)※の始まりってアメリカのストリート文化の一環で好きなアーティストのことを、仲間内で共有するためのもので、粗雑な作り方からスタートしているんですよ。
でも、日本のZINEカルチャーはハイクオリティな方向に行っているし、気質が出ているなと。
栞日でセレクトしているものもすごく立派で、出版業界そのものは下火になっているけど、小規模出版を集めたブックストアとかは増えてるから、全然この業界に危機感がないんですよね。
※ZINE(ジン):独立出版物。特に 自主制作の小冊子や雑誌 を指します。ZINE は、個人が自分の声を発信する場として、また、新しい文化や価値観を生み出す場として、注目を集めています。
藤原
あとはデジタルがめっちゃ強いですよね。
一昔前は書店でしか売れなかったのが、自分でSNSとかでファンを集めてネットショップで直販できるじゃないですか。
そうすると原価のかけ方が全然違うんですよね、
非合理の先の合理
藤原
非合理の先に合理があるっていうのが3社とも共通していると思ったんです。
木村石鹸さんは社員の方が勝手に作りぬいたヘアケア商品を、あとから理屈をくっつけてブランディングをしてそれが飛躍のきっかけになったじゃないですか。
だから、合理が先にあるわけじゃなくて、非合理なものをあとから転換させるみたいな。
木村
そうですね。
ちょっと思ったことが、最初スタートして例えば100という目標を立てるとするじゃないですか。
頑張って0が1になりました。1が2になりました。って少しずつ進んでいたら100が途方もない数字に見えてきて、飛び越えられるハックがあるんじゃないかって考え出す人が多いと思うんです。
ただ、個人的にはハック云々じゃなくて、最初少しずつ地道に頑張っていたら、途端に90とかに行くきっかけが来るんじゃないかなという気がしているので、頑張ろうっていう感じはあるんですよね。
ちゃんとやってたら飛びぬけるみたいな。
藤原
人のマネジメントでも同じことが言えますよね。
みんな、時間をかければ成果があがることを予想するんですけど、そんなのないですよね。
いつ飛ぶかわからない期間が下積みみたいになって、辞めちゃう人が出てきたりもたくさんあるけど、続けて努力してた人だけが見れるその先の世界ってありますよね。
木村
共通して言えることは、自社ブランド事業を始めたときに、うちは石鹸屋なので石鹸を使っていないシャンプーで伸びるなんて全く思ってなかったですよ。
さっき話した、地道に一件一件お店を回って営業するっていうのも、「こんなに効率悪いことやってどうするねん」っていう社内の反応もありましたよ。
でも、それをやり続けたら突然シャンプーで飛躍したし、そのシャンプーが売れた理由の一つは、これまで回ってきたお店さんが応援してくれたということも大きかったですよ。
やっぱり、菊地くんの銭湯の話とかもそうだと思うけど、いいことをしていたら何か起こるかもしれないなみたいなことってありますよね。
芽が出るかわからないけど種を撒く
藤原
この法則に従えば、市議会議員菊地徹・ブックカフェ栞日・銭湯菊の湯はとんでもないですよね(笑)
どこで飛躍するかわからないですから。
実際どうですか?
菊地
僕はさっき言った通りこの街の人間じゃないんですよ。
街の人にとったら、どこから来たかよくわからない当時26歳の兄ちゃんが、本をかき集めてお店を開いているみたいな話じゃないですか。
いい意味で、この街の人は僕に興味持ってくれないだろうなというのは察していたんです。
逆に言うと、関心がないからこそ、自分が自由に好きなことを表現させてもらえるだろうなという予感があったから、実際好きなようにやらせてもらったんですよ。
でも、予想もつかないことだから「どこか」と言うしかないんだけど、「どこかのタイミング」で地域と握手ができたって思ったんですよね。
そこから先って、頼られるんですよ。
藤原
確かにそうだよ。
いつしか街の顔になってる。
菊地
それまでは興味も持たれてなかったんだけど、向かいの銭湯のオーナーが声をかけてくれたように、街の風景を壊さずにやっているところとかをやっぱり見てくれてたわけですよね。
だから、木村さんがさっき回った店舗さんが応援してくれたって仰っていたことがヒントだなと思うんですけど、その手前ですごい種をまいてると思うんですよね。
その種から芽が出るかわからないし、花になって実になるかもわからないんだけど、自分たちで意識している以上にいろいろやってるんですよね。
藤原
これ他力本願の考えと似ていますよね。
自己都合のことばっかり考えているのはダメで、菊地くんが形態を変えずに銭湯をやっているのも、一店舗一店舗営業するのも、お店にとっては「こんなお店にも足を運んでくれるんですか」ってなるから「徳を積んでる」じゃないですか。
その徳がどこでブレイクするのかはわからないけど、他力本願って言うのは「もうダメだから、任す!」じゃなくて、「やることはもう全部やりきったからお願いします!」の「もうやりきった」が本質的なところで、「まずは自分でやる」というところが考えの要なんですよね。
木村
戦略的に狙ってうまいこといったということだけじゃなくて、そういう「徳を積んでたらいいことあった」っていうエピソードがたくさんある会社のほうが豊かな気がするんですよね。
今日も、この出張だけ見たら大赤字ですよ(笑)
社員からは「これは社長だから許されるんだ!」って言われると思うんですけど、移動販売車で色んなところに行くとか、直接触れ合う機会を作るとか、そういうものが何かになりそうだなって思っているんですよ。
こういう活動もやっても許されるような会社のほうが楽しいなと個人的には思う。
藤原
あとはバランスもありますよね。
「よくわかんないけどやる領域」の構成比が80%占めてるとかだと、やばいじゃないですか。
だからある程度決めてなきゃいけないですよね。
木村
木村石鹸では10%くらいは投資予算のような役割で「未来費」というものを作っています。
何になるかわからないもの、例えば「教育費」も「未来費」の中に入れていて、
社員の研修や教育費用ってリターンがわからないけど、やってたら僕は結構なリターンがあるとは思っているんです。
遠回りが、お好きでしょ
菊地
最後、教育とか「人に投資する」という話があったんですけど、行政が投資し辛いのが単年度予算とか四半期とかで区切られてしまうということなんですよね。
「ここまでにこのKPIを達成してください」という目標があったとしても、人に投資したリターンがその区切りの中で絶対あるかって聞かれると「いつかくるかもしれないし、こないかもしれないし・・・」となり「それはダメ」となるんです。
そこを超えていくのは、「この期間中に儲けを出さねばならん」ということだけではなくて、「この人がどういう成長をしていったら会社もこの人と共にどう成長していけるのか」、という「人起点」で考えられる民間の柔軟な発想ですよね。
すごく遠回りしているんだけど、人や未来に投資するからこそ「こういうこともできる」という余白も生まれる。
その余白の中で「徳を積む」という時間もできる。
すると、どこかのタイミングでリターンが帰ってくることがあって、そこを狙ってやっているわけじゃないんだけど「信じている」みたいなことなんだろうなと。
その「信じている」ということが「遠回りがお好きでしょ」っていうことだと思います。
■栞日菊地さんの選書 今回のイベントのテーマに合わせて、栞日さんに選書をお願いしました。 菊地さんが選んでくださったのは『思いがけず利他/中島岳志』。菊地さんの精神的主柱となっている書籍で、今回のイベントでの「他力本願」というキーワードなども盛り込まれています。 |