インタビュー
【後編】多様なサードプレイスが共存する街を目指して。
今回の記事は『取扱店舗インタビュー』として、独立系出版物を扱い、街の人と旅行者に愛される書店喫茶 栞日/1組限定の暮すように泊まる宿 栞日INN/街と森を結ぶ銭湯 菊の湯のオーナーかつ、市議会議員としてもご活躍中の菊地徹さんにお話をお伺いしました。 【後編】は、コロナ禍で事業承継された、栞日の向かいにある銭湯「菊の湯」についてや、木村石鹸と栞日の関係性などについてお伺いしています。
5月に長野県松本市にある栞日さんで、新調した移動販売車 グットラックでの物販イベントと、藤原印刷さんも交えてトークイベントを実施させていただきました。
今回の記事は『取扱店舗インタビュー』として、独立系出版物を扱い、街の人と旅行者に愛される書店喫茶 栞日/1組限定の暮すように泊まる宿 栞日INN/街と森を結ぶ銭湯 菊の湯のオーナーかつ、市議会議員としてもご活躍中の菊地徹さんにお話をお伺いしました。
【後編】は、コロナ禍で事業承継された、栞日の向かいにある銭湯「菊の湯」についてや、木村石鹸と栞日の関係性などについてお伺いしています。
▼前編はコチラ
「銭湯に通う」という行為を若い人にとっても日常に
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菊の湯についてもお伺いしたいんですが、15時に菊の湯になるとぞろぞろと集まってくる風景が好きで、経営が苦しくても承継するぞ!というお話をトークイベントでされていましたが、銭湯として既に松本に馴染んでいる部分がある中で、ブラッシュアップしたこと、残したことは何ですか?
菊地
菊の湯を継承する際に最も重要だと感じたのは、利用者の世代拡大だなと。
全国の銭湯が閉鎖に追い込まれる主な理由はライフスタイルの変化なんです。
銭湯は地域の公衆衛生を保つために生まれた背景がある中で、戦後、公衆衛生の改善と各家庭にお風呂が普及していったのが大きい。
特にユニットバスが集合住宅に広まったことで、多くの人がシャワーで済ますようなライフスタイルが進んで、入浴自体が遠ざかっています。
僕自身、幼少期に銭湯に行った経験がほとんどないです。
銭湯の社会的な存在価値が変わっていく中で今も通っている皆さんは、幼少期から銭湯でお風呂に入るというのが日常だったから、今も利用を続けているんだと思います。
これが若い世代には経験としてなくて、心理的な壁になってると思います。
今の銭湯の多くは年長者の皆さんが支えてくださっていて、若い世代にも銭湯が日常に組み込まれていかないと、ビジネスとして成り立たなくなります。
なので、菊の湯では「お子さん連れも歓迎です」という取り組みにトライしています。
小さい頃に親に銭湯に連れてきて貰った記憶がある子供が大人になったときに、自分の子供もまた銭湯に連れていくというような循環を作ることを目指しています。
多分、銭湯の運営継承は、菊の湯に限らず、全国的にも増えていくんじゃないかなと。
菊の湯を継承したいと思ったのは、ここに集まるおじいちゃんやおばあちゃんたちの風景が好きで、それがなくなるのが寂しかったという私の個人的な想いからなんです。
でも、やっぱり喫茶店と銭湯っていうのは、同じなんですよ。
喫茶店と銭湯は同じ「サードプレイス」という概念でくくれるところがあって、例えば同じ人であっても、ある日は栞日が、別の日には菊の湯がサードプレイスとして機能することもあって、同じ人でもその日のコンディションによって変わります。
同じ街の中に多様なサードプレイスが共存して、開かれている状態の方が、暮らしが豊かで心理的安全性が高まると思います。
例えば、今日のしんどさはあの場所で解消するとか、明日頑張りたいときは今日とは違う別の場所に行くとか、そういう場所が一人ひとりの生活者にとっていくつもある街で僕は暮らしたい。
栞日だけじゃなくて、近しい目標を持つ他のお店や場所を提供しあえる仲間が同じ街にたくさんいると、それは幸せで楽しい街になると思います。
銭湯の課題と菊の湯のミッション
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先代は、菊地さんの考えに賛同してくれたんですか?
菊地
社会的資本としての銭湯のありかたに着目する若い世代が、これからもっと増えていくと思います。
菊の湯が幸運だったのは、先代が私の考えを受け入れてくれたことです。
そこまで言うんだったらもう閉じるって決めた銭湯だし、「やれるだけやってみてください」と言ってくれました。
やりたい人とやっていいと言う側がうまくマッチングすれば、菊の湯のようなケースは増えて、銭湯は残っていくと思うんですよ。
ただ、運営側の世代交代ができても、利用者側の世代交代が進まないと成り立たないんです。
これをうまく循環させるサスティナブルなビジネスを菊の湯が示せると、地方都市でも成立する良いモデルになると思って、そのミッションを自分に課して取り組んでいます。
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なるほど、菊の湯のお話もありがとうございます。
栞日さんと木村石鹸の出逢い
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ここからは木村石鹸と栞日さんというところでお話をお伺いさせていただきます。
木村石鹸と栞日さんは、確か小杉湯さんとの企画で知っていただいたということで、その頃のことは覚えていらっしゃいますか?
菊地
確かその前に、栞日のリノベーションでもお願いしたをリビセン(ReBuilding Center JAPAN)さんに、菊の湯のリノベーションもお願いした際に、銭湯のビジネスモデルとして小杉湯さんを紹介いただいて、調べていくうちに小杉湯さん繋がりで木村石鹸という存在を知り、企業スタンスにも共感しました。
菊の湯を運営継承するにあたって、「健康」と「環境」の2つを重点的に取り組む分野として掲げていたんです。
健康配慮や環境配慮を目指す中で、自然に、ケアという概念やサスティナブル、ウェルビーイングといったことに立ち返って、菊の湯で使用するものや販売するものは、これらの社会的配慮をしっかり行っているメーカーの製品や、配慮を持つ誰かの製品で満たしていきたいと考えていました。
なので、備品や販売品は、健康に対してポジティブな作用が生まれるという配慮があるか、環境にネガティブな影響がないかを基準に選んでいます。
この基準に木村石鹸がフィットしていると感じたので、取り扱いを始めました。
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そういう風に思ってくださって、とっても嬉しいです。
そういえば菊の湯に「富より健康」って書いた牛乳が売っていて、なんだこれは!となりました(笑)
菊地
そうそう。
さっき木村さんになんであの牛乳屋さんにしたの?って聞かれたて、社訓が「富より健康」だったからって話した(笑)
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菊の湯では、貸出してくださった時期があったり、栞日INNではSOMALI(そまり)と12/JU-NI(ジューニ)を置いてくださっていたり、栞日では販売してくださっていると思うんですが、実際にお客様の反応とかってあったりしますか?
菊地
INNのお客様からは「あれめっちゃいいんだけど、どこで買えるの?」とかっていうのはよく耳にしますね。
菊の湯でも「木村石鹸」や「12/JU-NI」をレンタルでやってたんですけど、木村石鹸を知ってるお客さんが借りてくれることが多かったですね。
でも、500円で入浴できる公衆浴場の物販コーナーに置くアイテムを選ぶ場合、高価と感じる商品は動かしにくいという問題があって、常時ラインナップとして置くのは難しいという判断をしました。
一方で、栞日には数千円のアートブックや写真集の扱いもあるので、こっちに置くとよく動く。
使ってほしいのは菊の湯なんだけど、買ってくれるのは栞日という状況で、今後ここの連動でどういう工夫ができるのか考えていきたいところです。
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ありがとうございます。
無理せずに扱ってくださればと思います。
そこは、木村石鹸側が向き合っていかなきゃいけないところでもありますね。
ただ、いろいろ考えてくださっているということが嬉しいです。
今栞日としてやるべきことは、栞日の在りかたを突き詰めていくこと
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栞日・菊の湯のオーナー・市議会議員など、幅広い顔をお持ちの菊地さんですが、トークイベントで「景色が見えたらやる」と話してされていました。
今、どんな景色が見えているのか、何を考えて何をしていくのかお伺いしたいです。
菊地
まず、栞日という会社としては拡張は考えていないです。
今、栞日・栞日INN・菊の湯の3店舗を同じ通り沿いで運営していますが、新たな店舗を増やすようなことは全く考えていないです。
やらなきゃいけないと思っているのは、今後は、この3店舗の密度や精度を高めていきたいです。
栞日だけで街のサードプレイスとして完結することはできないと思っていて、街に対して同じようにサードプレイスを提供している皆さんとも、ゆるーく連携していきたい。
今日は栞日っぽい気分じゃなくても「あそこ行ったらいいと思うよ」「こういう場所もあるよ」とか、お互いに紹介しあえるような関係を広げてたり、深めていきたいですね。
今後の木村石鹸に期待すること
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最後のご質問なんですが、栞日オーナーとして、菊地さん個人としてでもいいのですが、木村石鹸に対して何か期待したいことはありますか?
菊地
今回のトークイベントのテーマでもあった「遠回りがお好きでしょ」とも繋がるんですが、コロナを経て皆が気づいたことの一つに「やっぱり対面ってよかったよね」ということがあると思うんです。
オンラインの利便性も大事ですが、対面で人と会って同じ空間に体を置いて、声もちゃんと振動として伝わって耳に入ってみたいなこの感覚って、大事だなって。
僕はこれを無理やり言語化して「身体性」っていう言葉で集約しちゃうんですけど、身体性を伴う行為って人間として自然だったよねみたいなのが、コロナ禍の中の気づきの大きなものの一つだと思うんですよね。
今回のイベントも、ネットで買って配達できるものを、わざわざ移動販売車に積んで大阪から松本まで移動して販売することで、今こうやって栞日の中で一緒に話してるっていう価値を共有できる皆さんが大勢のいらっしゃると思うんですよね。
出張に対する経費対利益はめちゃくちゃネガティブで、ほんと何やってんの・・・みたいな話だと思うんですが、将来的にはめちゃくちゃ効いてくる取り組みだと思います。
なので、この活動を無理のない範囲で続けてほしいですね。
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ありがとうございます。
今回初めての遠征でしたが、栞日さんや藤原印刷さんとの繋がりが深まりましたし、お客さんとも近くなれた気がします。この活動は利益だけを考えると難しい面もありますが、地道に続けていきたいと改めて思いました。
ここまでお話しお聞かせくださりありがとうございました。
隙あらばまた松本におじゃまさせていただきます!