インタビュー
【後編】本の制作は「なんで本を作りたいと思ったんですか?」から
今回の記事は、一冊一冊心を込めて本をつくる藤原印刷の専務取締役の藤原隆充さんと、「ぬいぐるみのおふろセット」なども担当された営業の小池さんに話をお伺いしました。 【後編】では藤原さん・小池さんに藤原印刷さんの引き出す力についてや、ぬいぐるみのおふろセットの制作秘話、今後の藤原印刷さんについてお伺いしました。
5月に長野県松本にある栞日さんで、新調した移動販売車 グットラックでの物販イベントと、栞日さんも交えてトークイベントを実施させていただきました。
今回の記事は、一冊一冊心を込めて本をつくる藤原印刷の専務取締役の藤原隆充さんと、「ぬいぐるみのおふろセット」なども担当された営業の小池さんに話をお伺いしました。
【後編】では藤原さん・小池さんに藤原印刷さんの引き出す力についてや、ぬいぐるみのおふろセットの制作秘話、今後の藤原印刷さんについてお伺いしました。
▼藤原印刷
藤原印刷は、長野県松本市に本社を置く印刷会社で、出版印刷、商業印刷、各種印刷物の企画・製作・デザインを行っています。1955年に創業し、作り手の要望に寄り添い、複雑な造本や手製本などを得意としています。
▼グットラックツアーの詳細(記事に埋め込み)
聞き手:にしうら
藤原印刷の引き出す力
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藤原印刷さんが印刷された本は制作者の分身のように感じますが、お客様の意図をどのように引き出しているのでしょうか?
藤原
普通は打合せの際に作りたい本のサイズ、数量、ページ数、色、といった中身の内容を聞いていくと思うんですけど、小池も僕も一番最初に「なぜ本を作りたいと思ったのですか?」と質問します。
そうすると、その背景からその人の人生の断片が見えてきます。
例えば、ずっと一日中家に閉じこもっている人が「今しか書けない気持ちをまとめたものを本にしたい」と言えば、閉じ込められた状態や鬱屈した気持ちが後のヒントになります。
その人の背景や思いを紙や色で表現することで「自分のもの感」が増していき、唯一無二の「私の本」になっていきます。完成した本が自信をもって薦められたら、満足感になり、「本をつくって良かった」と幸せな気持ちを生むのだと考えてます。
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なるほど、そうやって「自分の分身」みたいなものが出来上がるんだなという風に感じました。
小池さんは実際に営業をされていて、いかがでしょうか?
小池
色んな選択肢がある中で、どんな風にモノを表現したいかということをよく聞きます。
音楽で例えると、いきなり曲を書くというより、まずジャンルを聞くみたいな。
ロックですか?フォークですか?ヒップホップですか?という感じで、なるべく具体的な言葉で表現したいことって何ですか?というところを聞いていく。
藤原
あと、オンラインの打ち合わせでも、その人が何の服を着てるとか、しゃべり方が早いか遅いかとか、言葉遣いとか、その人がどういう人間なのかというのはめっちゃよく観察しているよね。
ぬいぐるみのおふろセット制作について
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ぬいぐるみのおふろセットの制作も、藤原印刷さんにお願いすれば間違いないだろうと思い、お願いさせていただきました。
「洗剤に絵本をつけたい」という提案は珍しいと思いますが、他社さんでも同様の事例はありますか?
また、ぬいぐるみのおふろセット完成までにどのようなことを考えていましたか?
小池
本と何かを組み合わせる事例は、弊社のお客様でも過去にありました。
例えば、本と紅茶をセットにして販売し、紅茶を飲みながら本を楽しむ時間を提供したり、ワンピースの生地の一部を本に貼り付けたりもあります。
木村石鹸さんの場合、エンドユーザーさんにどんな体験を提供したいのかということはヒアリングを続けていく中で少しずつ把握していました。
また、石鹸のイメージから、「水」という要素は避けられないだろうとか、水に対する感覚を具体的にして、「必要な資材」や「使ってはいけない資材」など、そこからNGラインみたいなものが分かってくるんですよ。
こうして、選択肢を狭くしていって実現したい方向に持っていくという感じでした。
ー
私たちは絵本の制作に関しては初めてでしたが、初めて本を制作されるお客様は多いのでしょうか。また、初めて制作される方に対して何か意識していることはありますか?
小池
お客様となるべく同じ土俵に立つことを意識しています。
今日は私たちのホームにお越しいただいていますが、お客様に伝わるかどうか分からない専門用語をたくさん使って印刷の説明をすることもできますが、初めてのお客様にとってはそれは全く意味がないので、なるべく同じ場所、同じ目線でコミュニケーションができるという素地を早い段階から作るっていうことをとても大事にしています。
ただ、中には初めて本を作る方でも、過去に印刷物を作ったことがある方もいらっしゃいます。
その方に対しては、その素地作りが逆に失礼に当たったりすることもあるので、敢えて専門用語を使ってみて、その時の反応で「あ、笑顔になった」とか「表情にはてなマークがでているな」とか反応を細かく観察しながら、コミュニケーションの素地を作ります。
全てのお客様に対しても同じというわけではなく「その人」をまず「知る」ということを一番大事にしていますね。
制作において難しかった点について
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このぬいぐるみのおふろセットは、色々お願いもさせていただいていて、手間もかかっているかと思います。特に制作側としても難しいと思うことはありましたか?
小池
最初に「本の最後に封筒を貼りたい」というご要望がありました。
それを、どのような形で実現させようかと考えたときに、本の一番最後の箇所に配置するっていうのは想像できたんです。
それから、製本テストをして、封筒の四隅をぴったりくっつけてみたんですが、これでは封筒の口が開かなくて、手紙を入れる際にストレスが生じるということが分かりました。
そこで、封筒の四隅には遊びを設けて、封筒の少し内側で貼付をして完成させるっていうことをやってみました。
初めての試みをする場合、必ずしも想像通りにうまくいくわけではなく都度改善点は出てきます。
そういったタイミングでは、木村石鹸のご担当いただいた信田さんにはいつも大変ご協力いただきました。
問題が起きたときに電話やメール・オンラインで詳細に説明することに対して、逐次丁寧に答えてくださって。「協働している」という確かな実感を信田さんが持たせてくださり、逆に僕はアクセルがより踏みやすくなりました。
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本当に信田も藤原印刷さんで良かったし、小池さんが担当で良かったと社内で話していました。
改めて、ありがとうございます。
小池さんと藤原さんの予想外な初対面
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藤原印刷でご活躍されている小池さんは転職で入社されたとお聞きしまして、他社がやっていないことに挑戦する藤原印刷に惹かれて転職を決意されたのですか?
小池
いえ、僕は藤原印刷に入る前は特にやりたいことはなくて、印刷にも全く興味なかったんです。
以前は海外旅行専門の旅行会社で働いていまして、直前までは上海に駐在していました。
妻も一緒に上海で暮していたのですが、子育てやこれからの人生の歩み方を考えだしたことがきっかけで、故郷の長野に帰ることを決めました。
それから上海にいながら転職活動を始め、転職エージェントに今までのキャリアを活かした仕事をしたいと相談している中で、「ちょっと1人会ってみてほしい人がいる」って紹介されたのが藤原だったんですね。
藤原
僕はエージェントに「とのかく面白い人がいたら楽しい時間にはするから紹介して」と伝えていました(笑)
小池
そしたらエージェントからの提案もあって、急に面接するのではなく一度面談みたいな場を設けしましょうとなって、僕は上海からオンラインで参加しました。藤原とエージェントさんと僕の三者による面談だったのですが、「まずはこういう人がいるよ」っていうのを知ってくれたらいいっていう程度の場でした。
ただ、僕の頭の中では、お相手の藤原さんという方は会社の採用担当をされていて、次の経営に携わるような人なんだ、みたいな想像をしていたので、当然失礼もできないため、スーツにばっちりネクタイ締めてそのオンライン面談に臨みました。
で、最初にエージェントの方と僕の2人でコミュニケーションをしたのちに、「あ、藤原さんいらっしゃったので、これからお繋ぎしますね」とエージェントの方が藤原を繋いでくれて、僕は本当にド緊張の状態で待機していました。
そしたら、画面に登場した藤原さんはなんとパジャマ姿で(笑)
一同
(笑笑笑笑)
藤原
前日遅くまで飲んでいて、着替える時間がなくてそのままの状態で繋いで出たんですよ(笑)
小池
「えっ?パジャマ??」ってなって、ただ、それだけで印象を決めちゃだめじゃないですか(笑)
仕事選ぶ上での僕の基準のひとつは「何をしたいか」よりも「誰と一緒に働きたいか」なんですが、話を続けてるうちに藤原さんと一緒ならもしかしたら楽しい時間を過ごせるかもしれないな・・・と、思っていったんですよね。
藤原
狙い通りですね(笑)
小池
僕はその戦略通り興味を持って・・・(笑)
ー
まさかそんな初対面だったとは・・・(笑)
藤原
小池は、良い意味で自分がないんです。
そういうタイプの方が顧客にちゃんと寄り添えるんですよね。
今後の取り組みについて
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今後、藤原印刷さんはどんな会社にしていくのか、会社の将来についてのお考えはありますか?
藤原
藤原印刷に入社した頃、今の状態を想像できたかと言ったら全く想像できないし、予測することさえ無意味だと思うんですよ。だから、時に身を任せる。
ただ、身の任せ方は自分でこうしたいとか、自分や藤原印刷がこうしたいとか思わないことが一番大事だと考えています。
お客さんの声や社会の声を聴いて「これができるんじゃないか」を丁寧に見つけていくことを繰り返していきたい。
会社の中には社員の声から立ち上がる色んな取り組みがあるんですが、基本的には個に組織が合わせる形をどうやってやれるのかが個人的なテーマです。
そのためには社員も自立しないといけないし、その自立した個に対して会社が頼られることも相互依存の状態じゃないとできないんですよ。
あまりに個が立ちすぎちゃうと、独立してダメになっちゃう。なのでそのバランスを取ることが今後の自分のテーマです。
木村石鹸に期待したいこと
ー
最後に、木村石鹸に対して今後期待したいなっていうことはありますか?
藤原
トークイベントの中で木村石鹸さんの自己申告型給与制度の話で、社員が自分で給料を申告して会社と決めていくのは、社員の過去に対する評価じゃなくて、未来に対しての投資だって木村さんが言ってて、本人と会社の両方が責任を持つというのがめちゃくちゃ木村さんらしいなと思ったんですよ。
木村石鹸さんがやっている商品開発も何となく外から見ていると、市場が何を求めているかよりも「作りたい」が前提にあって、みんなが面白がってる。
そういう文化の中で、市場経済も成り立たせているのがめっちゃすごい。
他の製造業にとってもリスペクトされる理由だと思います。
もし今後、木村石鹸が利益ばかり考えていたら「あれなんかちょっと木村さんおかしくないですか?」と問いかけたいです。非公認監査役ですね(笑)
だから、規模がどんどん大きくなっても、本質的な木村石鹸らしさを忘れないでいられるかを見ていたいです。
ー
ありがとうございます。
ぜひ監査役はこれからもお願いしたいです(笑)
今回一緒にイベントをさせていただいたり、お話をお伺いさせていただいて、藤原印刷さんとは、もっと商品でも関わっていきたいですし、本以外でもいろいろ関わらせていただきたいなと改めて思いました。
藤原さん、小池さん、本日は本当にありがとうございました!