環境・地域への取り組み
誰かの“いま”に寄り添う——コミュニティナース・まちにひらかれた看護
コミュニティナースの小鹿さんにインタビューさせていただきました。
書き手:うらちゃん
病院でも、訪問看護でもなく、「地域の日常」にいるおせっかいやさん。それが“コミュニティナース”と呼ばれる人たちです。
今回お話をおうかがいするのは、大阪府・八尾市を中心に活動するコミュニティナースの小鹿さん。医療でも介護でもない、けれど確かに人の心や暮らしを支えるその姿勢には、木村石鹸のものづくりとも通じるものがあります。木村石鹸では、小鹿さんの活動に共感し、コミュニティナースの取り組みに協賛させていただいています。また、木村石鹸の社内勉強会の際にも、健康をテーマに講師をつとめていただきました。
地域のまちづくりや健康づくりとともに、ものづくりの企業がどのように関わり合えるのか。小鹿さんのお話から、そのヒントを探ります。
コミュニティナース 小鹿千秋さん
コミュニティナースとは?——「いるだけ」で安心される存在

「コミュニティナース」という言葉を初めて聞く人もいるかもしれません。
それは病院や施設の“枠”の外に出て、地域の日常の中にそっと存在する、ちょっと不思議で、けれどとても大切なナーシングのかたちです。
「何かを“する”というより、“いる”ことで安心してもらえる存在なんです」
そう語ってくれたのは、木村石鹸の本社がある八尾市を中心に活動されているコミュニティナースの小鹿千秋さん。
看護師としての資格を持ち、病院での勤務経験を経て、現在は「おむすびスタンド むすんで、にぎって。」を営みながら地域の日常に“とけ込む”ように活動しています。
「ナース」という言葉が入っていますが、コミュニティナースは「看護師」だけの取り組みではありません。
実際は、地域の郵便局員だったり、個人店の店主さんだったり、「コミュニティナーシング」という地域の中でできる看護を展開できるかたのことを指します。
「社会的孤独を防いだり、人と繋がることによって相互扶助の関係を作っていく中で、その人らしい生き方をお手伝い」
「日々が楽しいとか、ワクワクとか、健康からはちょっと離れていそうなんだけど、実は健康に直結しているようなところを、しっかりとアプローチしながらウェルビーイングを育てていく」
小鹿さんの活動には、「健康」や「医療」とは少し違う、もっと“暮らし”に寄り添った視点があります。
そして、こうしたコミュニティナースの存在は、人と人の距離が見えにくくなった現代社会で、「ケア」と「関係性」を見直すひとつの手がかりとして、今、全国のまちづくりの文脈でも注目されはじめています。
社会的孤立を“知った”看護師として

病院で看護師として働いていたころ、小鹿さんは退院支援に携わる中で、「家に帰ってもひとりだから帰りたくない」と訴える高齢の患者さんと向き合う場面に何度も立ち会ってきました。
「そうは言われても、退院していただかないといけない。そういう事情があるんだなということは思いつつも、じゃあ私達が何ができるのかというと、病院の中からは特に何もできなかったんです。」と振り返ります。
その後、長女を出産。重度のアレルギーを抱えて生まれてきた娘とともに、薬を塗り、包帯を巻く毎日。外に出られない日々が続き、気づけば“社会との接点”が途絶えていました。
「ふと、思い出したのが、退院を渋っていた高齢者さんのことでした。誰ともしゃべれなくて、家の中にいるのは、こんなにつらいことだなって。私自身も社会的孤立を経験しました。」
その経験をきっかけに、小鹿さんは“社会的孤立を知った看護師”として、解決できる選択肢をつくりたいと考えるようになります。
そして、実家の一階を改装して母とともに開いたのが、地域食堂「おかえり処 お結びころりん」でした。
そこでは、元気な地域住民と自然に触れ合う時間が広がっていきます。病院では出会えなかった「その人らしい姿」に初めて出会い、小鹿さんは「地域の中でできる看護のかたち」を探し始めることになります。
マチのお守りのような場所をつくる

病院という枠を超えて、地域でできる看護のあり方を模索する中、小鹿さんは「コミュニティナース」という役割に出会いました。
実際に活動を始めたのは、地域食堂での相談対応からです。
「がんの告知を受けて、真っ白になってしまった方の話を聞いたり、病気の相談を受けたり。最初は病院で働きながら、少しずつ活動の幅を広げていきました」
やがて、街の中にもっと深く関わるため、勤務していた病院を辞め、新たに「おむすびスタンド むすんで、にぎって。」を立ち上げました。
ここではおむすびを買いに来たついでに、介護の悩みや子育てのことなど、さまざまな相談を持ちかける人が自然と集まってくるようになりました。
「“あんた便利やな”って言われて。何かあったらあそこ、と思ってもらえるだけで、安心してもらえる。そんな存在って、お守りみたいだなと思ったんです」
行政の相談窓口はありがたい一方で、住民にとっては少し敷居が高いこともあります。その点、個人店のような“日常の延長線上”にある場所なら、立ち寄る理由をつくりやすく、気持ちを打ち明けやすい。
「私は“言い訳をデザインする”ってよく言うんです。おむすびを買いに来た、ついでに話す。そういう口実があると、心理的なハードルが下がるんです」
「そんな、マチの中でお守りみたいな人や、場所がたくさんあったら安心して過ごせるんじゃないだろうか。」
こうして始まった「マチのお守りプロジェクト※」。個人店がゆるやかに支え合いながら、地域の安心の拠点になるという試みは、すでに同じ思いを持った仲間たちへと広がりはじめています。
※マチのお守りプロジェクトとは
地域の個人店さんなど、「何かあったらあそこに相談する」というお守りの要素を持っている人や場所を「マチのお守り店」と言い、木村石鹸も【地域の中に、お守りのような人や場所が増える】活動を応援しています。
日常の動線上で、暮らしによりそう

小鹿さんが大切にしているのは、「日常の動線上にいること」。それは、木村石鹸が目指している暮らしのあり方とも、どこかで重なっていると感じているそうです。
「生活を基礎から支えるという意味では、すごく近いマインドがあると思っていています」
「衛生の分野は介護の現場や、ハンド&ボディクリームはイベントで関わることができるかもしれませんね」
小鹿さんは、月に一度八尾廃校SATODUKURIBASEで開催されている「廃校の保健室」では、体組成計による健康チェックやハンドトリートメント、栄養士との対話などが行われており、地域の人たちが気軽に自分の身体と向き合う機会になっています。
「体組成計の数値自体は誰でも見られるものですが、そこには専門家がいます。リピーターさんも多いので毎月身体のことをちょっと気にかけるきっかけになっています。」
子ども向けにはキッズナース体験や健康クイズなど、遊びの要素を通じて、自然に“からだ”や“いのち”に触れる工夫も。高齢者にはハンドトリートメントと健康相談が特に好評で、日々の不安をそっと吐き出せる場となっています。
「“あの場所に行けば、何かある”と思ってもらえることが大切。地域に根ざしているからこそ、安心してつながれる関係が生まれるんです」
木村石鹸も、年に1度IGA Smileを実施し、三重県伊賀市の工場で物販イベントを実施しています。
「伊賀でのイベントの際も、木村石鹸とコミュニティナースでコラボとして動くのもいいかもしれません」
まちに必要なのは、大きな支援ではなく、小さくとも続いていく“よりどころ”なのかもしれません。
その人らしく、生きられるまちへ
「これはずっと変わっていないんですが、住み慣れた場所で、その人らしく生ききれる未来をつくりたいと思っているんです」
小鹿さんが描くこれからの地域の姿には、看護師として培ってきたまなざしが深く根付いています。ただ健康寿命を延ばすのではなく、身体も心も、そして社会的にも健やかであること。それを多面的に支えるまちのあり方を、仲間たちと模索し続けています。
マチのお守りプロジェクトは、その第一歩です。たとえば“行きつけのお店”が、お客さんにとっての「お守り」となり、小さな困りごとを誰かがそっと拾える。そんな“住民主体のセーフティネット”を地域の中に育てていきたいと話します。
そして将来的には、「住まい」の選択肢も地域の中に増やしたいと語ります。病院でも、自宅でもない。けれどその人らしく過ごせる“居場所”がまちの中にあることで、終末期をより豊かに生ききることができるのではないか。
「その人が何を大事にして生きてきたかを、元気なうちから知っている人たちがいてくれること。それが、最後のケアのあり方も変えてくれると思うんです」
いざという時、誰かがそばにいてくれる安心感。自分の人生を知っていてくれる場所や人がいるという感覚。それこそが、八尾のような地域に“住み続けたい”という気持ちを育むのかもしれません。
木村石鹸も、地域の安心感を作る要素のひとつとしてありたいなと願います。
【GOODおせっかいAWARDに、木村石鹸の商品を一部お持ちいただきます!】

小鹿さんが実行委員として所属されている、GOODおせっかいAWARDに、木村石鹸の商品も一部販売いただきます!
小鹿さんチームのブースでは、コミュニティナースさんのハンドマッサージなどを体験いただけます。
<開催概要>
日時:2025年
11月28日(金)16:00〜20:00(前夜祭)
11月29日(土)10:00〜15:00(本祭・授賞式)
会場:スズカト(三重県鈴鹿市住吉町 南谷口)
