木村石鹸

八天堂 森光社長の講演 を聞いてきて

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先日、弊社が加入させて頂いている日本道経会(一般社団法人 日本道経会)大阪支部の9月例会があり、そこで株式会社八天堂(「くりーむパン」の八天堂 – 広島県三原市)の森光社長の講演がありましたので、受講してきました。

八天堂は、の「くりーむパン」は、その食感の新鮮さ、美味しさで、今や数多くのメディアにも取り上げられ、今や大人気。会社としても素晴らしい業績を上げらている優良企業ですが、実は、ここに至るまでには、想像を絶するような苦労や失敗、努力がありました。

森光社長は、その過程を包み隠さず語ってくれました。

  • パン屋を開き、順調に店舗を増やしていくも、競争が激しくなり売上が激減
  • パン職人に憧れて入社した新卒社員が3ヶ月で心労で来なくなる
  • 店長が次々と辞めていく
  • 借金を返す、お金を回していくためにひたすらパンを焼く毎日。心身ともに限界の日々
  • 銀行から追加融資が出来ない旨を告げられ、また弁護士のところに連れていかれて、「会社更生法」の申請について説明を受ける

パン屋で倒産ぎりぎりで踏ん張りながら、森光社長は、ある時、地元のスーパー等には、袋に入ったこだわりのパンが存在しないことに気づきます。そして社長はスーパーに直談判し、地元のパン屋、パン職人が作った「こだわりパン」を置かせて貰うことが出来るようになりっていきます。業績は急回復し、広島のあらゆるスーパーに、森光社長のパンが配荷されるようになっていったそうです。

しかし、そうやってV字回復を果たした中でも、森光社長は、このままではいけない、という不安を抱いていました。商品を置かせてもらえるお店が増えたことで、遠い店への配送は時間がかかる。配送してる間にパンが冷めてしまう。また、ぎりぎりの人数でやってることもあり、別の納品先でトラブルがあっても、すぐに駆けつけられない。このような状況での業績拡大では、必ず、行き詰まりが来る、森光社長は強い危機感を抱いたそうです。遠いところの店になれば、必ずもっと近い地元のパン屋などが代替えになっていく、いくらこだわりのパンと言っても、地元のパン屋やもっと近いパン屋が焼き立てのパンを納品するようになれば、太刀打できなくなる。

業績が好調なときだからこそ、森光社長は、次の一手が必要だと強く意識します。
そして、現状は数百ものパンを製造して販売しているが、1つに集中して勝負する必要があるという決意を抱きます。

手掛けるパンを1つに絞る、ということには、ご両親も含めて、周りの殆どが大反対をしたようですが、それでも森光社長はその決断を覆さず、実行に移していきます。

●選択と集中の重要性とそれを決断・実行することの難しさ

選択と集中というのは、本当に難しいものです。言うのは簡単ですし、その重要性を理解していない人は殆どいないと思います。しかし、いざ、目の前には今、手がけている商品やサービス、事業があって、それが売上を生んでいる。この状況の中で、何かを切る、何かを辞める、何かを整理する、なんていう決断を下すというのは途轍もない勇気がいることです。

森光社長は、絞り込みの重要性を非常にシンプルな概念で示してくれました。その背景には、ランチェスター理論やきちんとしたマーケティング的な裏付けもあるのだと思いますが、森光社長が説明された概念は実にシンプルで、シンプルであるが故に、私たちのような中小・零細企業の経営においても真実味を持って迫ってくるものがありました。

なぜ1つに絞り込む必要があったのか? 森光社長はこんな風に説明します。

自社が持ってる力を10として、それで100のことをやっていたら、10÷100で1つのことに0.1の力しかかけられない。これを1つのことに絞れば 10÷1で10になる。0.1とは100倍の差になるじゃないか。小さい会社が生き残っていくには、一点集中、信じるものに徹底的に力を注ぎ込むしかない、そんな信念で、反対する周りの声、ご両親の心配を説得し、「くりーむパン」一品に絞り込みをかけるわけです。

私たちなどは、小さい母体ながらまさにものすごい数のことに手を出してしまっていて、確かにどれにも力を十分に注ぎこめてる状態とは言えず、お話をお聞きしていて身につまされる思いがしました。
頭では理解してても、それを決断するのには勇気がいりますし、実行するのはさらに大変です。
それをきちんとやり遂げて見事に成果や結びつけられているのですから、本当にすごいとしか言いようがありません。

結果的に、八天堂は数あるパンの中から「くりーむパン」という非常にオーソドックスなものに一点集中、絞り込んでいくわけですが、その選択の過程、他にはない新しいコンセプトの創出というところの話もとても面白く、参考になりました。

●くりーむパンが選ばれるまでのあれこれ

シュペンターは、イノベーションは「スタンダードとスタンダードの融合、掛け合わせである」みたいなことを言ってるそうです。

異なる業界や分野のそれぞれのスタンダードを組み合わせることでも、イノベーションが生まれる、という意味でしょうか。

一つのスタンダードとして、まずどんなパンにするかを考えたそうです。
パンで消費量が多く、人気の高いパンを上げていくと、あんぱん、クリームパン、カレーパン、メロンパン、焼きそばパンなど、色々なパンが上がって来ます。

ここから広島で作って、東京で販売するという制約から、カレーパンや焼きそばパンなどが消えていきます。運ぶ間に冷めてしまうので、東京やその近郊で製造してるメーカーには勝てないからです。

そもそも決断として森光社長は東京で勝負するということは最初から決めていたそうです。市場規模の大きさ、新しいものへの感受性の強さ、東京で話題のものは地方へもすぐ波及するというそのクチコミ影響力の強さなど、何をとっても東京で勝負しなければならない。

しかし、お金は無いので東京で製造場所・工場を建てたりすることもできない。あくまでも広島美原で製造して東京で販売する。つまり焼き立てホヤホヤが付加価値となるようなジャンルでは勝負できない、それが商品の一つの制約であったわけです。

もう一方のスタンダードの方。森光社長はパンのコンセプトや概念として、「口どけ」というキーワードを発見します。

スイーツ分野の表現やキーワードとして「口どけ」という言葉は非常にポピュラーで、人気があります。スイーツ分野では、「口どけ」はスタンダードなのです。
日本人は「口どけ」が大好きです。そういえば、少し前に大流行りした「花畑牧場」の生キャラメルも、その食感「口どけ」が話題になったことは記憶に新しいです。

森光社長はパン分野に「口どけ」というキーワード・概念が存在しないことに気づき、これをパンに持ち込むわけです。

口どけというキーワードと、焼き立てホヤホヤではない領域、つまり冷たいものでも美味しい、という制約が掛け合わされ、数多くのパンの中から、最終的に「くりーむパン」が選ばれるわけです。

●東京での成功・メディアの影響力

その後、口どけを重視したくりーむパンの開発に成功し、東京での販売に乗り出します。当初はデパートなどの催事がメインだったようですが、この新しいコンセプトに、感度の高い東京のメディアが飛びつき、どんどんクチコミが広がっていったそうです。
(講演の時、このくりーむパンを配って頂いたので、実は、初めて食べました。本当に食感がすごく良くて、美味しかったです。今まで食べたくりーむパンのどれとも違う美味しさでした。)

また、販売の過程で、お客様からお土産用はないの?という声から、スイーツ、手土産、パンという三つのジャンルが重なる領域が、ブルーオーシャンだということも発見します。確かに、パンとスイーツと手土産が重なる商品ってありそうでありませんね。

その後、八天堂のくりーむパンは、順調に販売を伸ばしていきます。
今は終わってまいましたが、朝の情報番組「はなまるマーケット」で取り上げられ、それが年間の総合ランキングで1位を獲得します。そこからは「向こう側」からどんどん条件の良い話が持ちかけられるようになったそうです。
なかなか入ることのできない東京駅に店を開かないかというようなオファーも、テレビで1位をとったという実績がとても大きかったよさということです。

現在では八天堂は、無借金経営、自己資本率も70%以上という超優良企業へと成長しています。

●マーケティングや戦略だけではない、八天堂の成功・飛躍の鍵

八天堂の成功事例は、マーケティングや経営戦略面で言えば、選択と集中、新しいコンセプトの世に無い商品の開発、そしてメディアなどでのPR・広報の成功といったところで分析して語ることが出来るでしょう。社長の話の中でも商品開発や、コンセプトの発見といったところは、とても面白く、非常に参考になりました。

しかし、八天堂さんの成功の裏には、こういった戦略・戦術面の影響もさることながら、実は、もっともっと根本の、理念や志の創出が大きかったのだろうと感じました。
森光社長もそこをかなり強調されていたように思います。

会社更生法寸前まで追い込まれたどん底の状態から、自身が人生をかけて、全てを注ぎ込めるような納得のいく理念。浮ついた美辞麗句で飾ったものではなく、真に自身の思いや志から生まれ出てきた言葉。そんな言葉が生まれてきたそうです。

八天堂の経営理念は、「良い品 良い人 良い会社つくり」。

シンプルだけれども、物凄く力強い言葉です。そして、実際、この経営理念に基づき、しっかりとした会社経営をされていて、そのベースが、今の成長・成功をもたらしているのだと思います。実際、社員教育にも非常に力を注いでおられるとのことで、そういった基礎があるからこそ、一過性のブームで終わるのではなく、継続的な発展に結びつけていくことができてるのではないかと感じました。

新しいもの好き。ちょっと変わったものを生み出していきたいです。

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