石けんメーカーが日本酒とレモンのベンチャーに出資した理由
つい先日、木村石鹸でナオライという会社に出資させてもらいました。
Naorai | 日本酒酒蔵と世界に向けた日本酒を開発していきます
ナオライという会社には、大きく2つの側面があります。
右肩下がりの日本酒市場をなんとか食い止めるべく、新たな日本酒の可能性を探る日本酒メーカーとしての側面と、人口30人、平均年齢75歳の瀬戸内海に浮かぶ小さな島、三角島(ミカドジマ)で、自ら無農薬のレモンを育てる純国産のレモン農家という側面です。
世界に通用する新しい日本酒の開発ということで、ミカドレモンというスパークリングレモン日本酒を開発したのが最初で、そこで使うレモンにこだわって、結局、自分達でレモンも栽培することになった、という経緯で、現在、三角島に約330本のレモンを栽培してます。
ナオライを率いてるのは、34歳のほんとどこを切っても「いい人」臭しか出てこないような近年稀にみる真面目な好青年、三宅紘一郎さん。僕はいつも彼の愛すべきキャラクターに敬意を表して三宅くんと呼んでますんで、ここでもあえて三宅くんと表記します。
世界に通用する日本酒をつくる野望
今、日本酒は世界でも注目を集めてはいますが、世界から見て残念なのは、酒蔵や日本酒ブランドが、地方と結びついていない、というところだそうです。ワインなら、各地方の畑との密接な関係を持ってます。
ところが、酒蔵は日本全国に散らばってはいるものの、その地方地方の特色や特産みたなものとの結びつきはほとんどありません。
上海で9年間、日本酒等の営業をしていた三宅くんは、世界に通用する日本酒には、その酒蔵と酒蔵のある地域との結びつきが必要なんじゃないかと考えたわけです。
そこで三宅くんは、広島の酒造メーカー三宅本店のお酒と、広島の特産であるレモンを組み合わせて、世界にも通用するような日本酒の開発にチャレンジしたのです。
世界展開を考えた上で、レモンはどうしてもオーガニックにこだわりたかったそうですが、広島ではオーガニックレモン農家は少なく、なかなか必要量を確保することが難しかったそうで、最終的には三宅くんは自身で無農薬レモン畑をやる決断をします。
日本酒をやろうとしてて、オーガニックのレモン農家までやってしまうところが、柔軟というか、無謀というか。 最初は当然、なかなかうまくはいかず、何度か木が枯れてしまいそうになったこともあったそうですが、トライ&エラーを繰り返し、今は、無農薬レモンを年に約2000kg(2017年度)収穫できる水準にまでなってるそうです。
そして生まれたのが、そんなオーガニックのレモンをふんだんに配合したスパークリングレモン日本酒の「ミカドレモン」というわけです。
ミカドレモンが30本売れるごとに、レモンの木を1本 植樹する。
そうやって、ナオライのレモン畑には、今、レモンの木が340本(先日4月にも植樹)になりました。
将来的には、これを10000本レベルにまでもっていき、久比・三角島レモンバレー という一台オーガニックレモン畑をつくりたい、と三宅くんは熱く語っています。
ナオライにとって、ミカドレモンは、実は彼らが構想する第一弾の事例にすぎず、このミカドレモンのような事例を、日本地方各地で、酒蔵と組んで展開していく、それによって日本酒業界に変革を起こそうというのが、彼らのビジョンでもあるわけです。
ミカドレモンと無農薬のレモン畑をやることだけでも、けっこう壮大な事業なのに、それは単に一事例に過ぎず、こういう事例を日本全国に増やして、日本酒業界を変え、最終的には日本の地方活性化を果たす、という目標は、とてつもなく大きく、また、困難な道のりに見えます。
でも、三宅くんが、すごいのは、それを単なる空想に留めず、少しづつですが、確実に、一歩一歩、実現に向けて足を進めていってるところです。
どうして木村石鹸が日本酒やレモンの会社に出資をしたのか?
木村石鹸がナオライのような会社に出資したのは、1つは、三宅くんがお願いに来たからです。
三宅くんとは知り合って2年ぐらいですが、ある時、三宅くんが、増資をするので一部を木村石鹸で引き受けてくれないか、と打診に来たのです。
お願いされたら誰でも出資するのかというと、そういうわけでもないですが、少なくともお願いされなければナオライに出資しようとは思わなかったと思います。
そもそも、三宅くんが当社に出資をお願いに来たということに驚いたわけです。
なんでうちなの?という感じです。
三宅くんが描いている壮大なビジョンを実現していくには、今後も、何度かの資金調達は必要になるんじゃないかと思うんですが、そう考えたら、当社みたいな名も知れていない信頼もない事業会社が株を持ってるということは不利に働く可能性もあるわけです。
また、会社もスタートアップ時期で、これからというタイミングです。どうせ出資を受けるなら、事業的にシナジーがあるとか、投資先の人脈が活用できそうとか、そういうビジネス的な「おいしさ」を狙うのが普通のように思えます。当社にはそんなものは殆どありません。あるなら、うちがそれを活用したいぐらいの話です。
三宅くん的には、木村石鹸が考えてることや目指してる方向性と、ナオライが描いてるところに近いものを感じたということのようです。それが出資を依頼した理由だそうです。
三宅くんという青年は、正直、ビジネスがうまい人間ではないと思います。むしろかなり不器用だと思います。
僕も所謂、経営者というタイプでもなく、不器用な人間なので、よく分かるのです。
不器用だから、会社の方向性とか理念とかそういうものが近いと思ったから、というような理由で、当社に出資をお願いにきたんだろうと思います。
でも、その考えてることとかが近いんじゃないかというところは、実は、僕もそれはそう思ってて、そこも投資をOKした理由だったりもします。
ナオライが事業として成功するかどうかは、まったく分かりません。でも、少なくとも三宅くんはケツをまくったり、裏切ったりすることはない人だなと思えたことと、ナオライのような会社が生き残っていく、成長していって欲しいなと思ってたので、自社の夢とか希望みたいなものも投影して、出資に応えることにしました。
彼らがやってるビジネスは、すごく時間がかかります。また、スケールしにくいモデルです。
でも、社会や人にとっては、すごく価値がある、意味があることをやろうとしてます。
僕は、地方がどんどん滅んでいくことには、個人的にはかなり危機感を持ってます。
ビジネスや経済の効率から考えると、地方創生やら地方再生みたいなことをやるより、東京を中心とする首都圏や、関西、九州など一部の人口・産業の集積エリアに集中して手を入れたほうが良いんじゃないかという議論もあります。
滅びゆく地方をなんとかしようとしてたら、日本全体がこけるんじゃないか、みたいな話です。でも、僕は、地方がない日本には、あまり魅力がないなぁと思うんです。
多様な地方を持った国だからこそ、東京がより魅力的だったり、日本の魅力がより醸成されるんじゃないかとも思うし、そういう国のほうが個人的には誇りが持てるなと思ってます。
ナオライはそんな豊かな地方が生きる未来を目指してるんで、僕らもそれをできるかぎり応援しよう、そんな風に思ったのが出資を決めた理由です。
(5月22日:追記)
ナオライですが、5月14日から、クラウドファンディングにチャレンジしてました。
1口31,500円、募集総額8,940,000円と、クラウドファンディングではけっこう規模の大きいプロジェクトでしたが、募集開始してわずか4日間で、183名のご支援者の皆様から298口のファンディングいただき、あっという間に達成となりました。
私個人も、この反応にはすごく驚きました。ほんとに多くの人がナオライや、あるいはナオライが手掛ける事業領域、ソーシャル課題などに関心が高く、応援しようと思ってくださる方が多いのだなと改めて確信を得ました。