新しいものを生み出し続けるために必要なこと
今、やってるプロジェクトの締めくくり的なもので、学生のインタビューを受けてたのだけど、質問の中に、
「今後作っていく商品や狙っていく市場などは、どうやって決めるのか、考えるのか?」
というものがあった。
ちょっと変わった質問なので印象に残った。「今後作りたい商品や狙いたい市場は?」というのは多いが、商品や市場をどうやって見つけるのか、考えるのか、を聞かれたことは多分なかったんじゃないだろうか。
少し考えてみたが、Howの部分は、正直、自分でもよくわからない。大きい戦略的なものとかは、世の中にある様々なマーケティングだとかビジネスモデルのフレームワークを使って考えたりもするし、商品もマーケティングのセオリー的な要素でレビューすることはあるけど、でも、まぁ、そんなことは誰でも、どこの会社でもやってることだ。
というか、常に、新しい商品や市場のことは考えてはいるけど、そういうものが形になるのは、人との会話だとか、テレビや雑誌、あるいはネットなどの情報だとか、知人や同僚の不満や愚痴だとか、そういう「何か」が切っ掛けになるもので、机に向かって、あーだこーだと、それを生み出そうと頭を捻って考えだすものでもないように思う。
うちの会社では、OEMもふくめると年間に50以上のも新規商品を開発してる。OEMといっても、最近は相手先からこんなものを作って欲しいとオーダーが来るものよりも、何かご一緒できないか、と相談されて、一緒にアイディアを考える、みたいな仕事が増えてる。
でも、社内では、皆でアイディア出し会議みたいなものをやるとか、ブレストやる、みたな機会はほとんどなく、基本的には、言い方は悪いかもしれないが、各自が勝手にやる、というスタイルになってる。
商品つくりたいとか、何か思いついた人は、とりあえず自分で主導権とって作り始めて構わない。技術の人間なんかは、自分が作りたいものを勝手に開発してる場合もあるし、営業の人間は、こんなどうかな、と技術や制作の人間に相談して、とりあえず試作に取り掛かってもらったりすることもある。
ここには社内的な取り決めも手続きも一切ない。思いついた人が自身で、適当な人に相談して、勝手に進める、というスタイルだ。なので、誰がどんな商品を作ってるのか、どんな商品の企画が進んでるのかは、ほぼ誰も全容を把握していない。
それは情報共有という点ではすごく問題で、よく社内からの不満としても声があがる。なにせ、商品が発売されていることを、当人以外が知らないなんてことがある。その商品についての問い合わせが社内にきて、これ何?みたいになったり。それは流石に良くないことなので、少なくともそのへんの共有はしないと、ということで取り組みはスタートはしているようではあるが…
目次
マーケティングも大事だが、一番重要なのは思いついたアイディアを形にしやすい環境かどうか?
先の質問に戻って考えてみる。(いつも書き出すとどんどん脱線して、本筋がわからなくなる。)
よくよく考えてみると、僕がすごく重要視してるのは、何を作るかをどう組み立てるかよりも、作りたい商品や狙いたい市場みたいなものが思いついた時に、それにすぐに取り組めるかどうか、そんな環境や制度の方だと気付いた。
こんな商品つくりたいな、こんなサービス面白いな、と思った時に、それを誰かに相談でき、そして、とりあえず何か始めてみるか、と気軽に着手できるかどうか。これはすごく重要なことだと思う。
さっきも書いたが、うちには、新しい商品を開発するのに、何かのフローや手続きがあるわけではない。各自が勝手に、誰かに相談して、たいていの場合、最初は試作づくりから始まる。もちろん、こういう商品ならこの人、というお決まりのパターンがあるし、各人同士、相性もあるんで、どういうチームになるかはその人次第というところがある。
仕事の優先順位も、各人や各メンバーで勝手に決めてもらってるんで、他の仕事がいっぱいで、そこまで手が回らないから無理、ということで断られることもあるだろうし、それでもなんとかこれだけはやって欲しいと懇願して、無理矢理やってもらうこともあるかもしれない。そのへんも任せてる。
何か思いついた時の着手のしやすさ、その手続きの楽さ、という意味では、うちの会社ぐらいハードルが低いところはないんじゃいかと思う。
何でもつくればいいというものでもないだろうが、でも、少なくとも、新しいものを自分たちの手で生み出していける会社でなければいけないと思ってる。
僕らは、かなり小さいロットでも商品をつくることができる。それこそ担当自身がシール貼りやら充填作業をやったりしないといけない場合もあるが、そんな風にやれば、100個や200個みたいな単位で商品を作ることも不可能ではない。
なので、良い意味で「失敗しやすい」環境がある。失敗してもダメージが少ない。
これはビジネスにとってはすごく大きなアドバンテージだ。このアドバンテージを最大限活用して、僕は、「数打てば当たる」戦略を実践している。(そんなの戦略とは呼ばないかもしれないが)
せっかく、作りやすく、失敗してもリスクが低いという環境があるんだから、どんどん作ればいい。その中から、1つ、2つヒットするものや、意外な可能性を広げるものが出てくるだろう。それでいいと思ってる。
掃除機ホースの洗浄剤開発の大失敗について
以前、こんなことがあった。ある社員が、掃除機のホースの中の汚れに気付いた。ホースの蛇腹部分には実は吸い取れなかったゴミや埃が溜まってる。適度な湿気もあるので、そこで雑菌が繁殖したりする。
これの洗浄剤を開発したら面白いんじゃないかというアイディアだ。すぐさま開発や何人かの営業がアイディアを出す。ホースの中の隅々を、蛇腹の節々をきちんと洗うにはどうしたらいいか。物理的に擦れないし、長いので、何か液を注入したりするのも大変だ。
で、エアゾールスプレーにロングチューブをつけて、それをホースにツッコみ、スプレーすると、ホース内に泡が充満していく、という方法を取ることにした。
すぐに試作を始め、外部パートナーなどにも協力してもらい、試作物を開発。たぶん、思いついてから1ヵ月ぐらいで試作物は完成したと思う。
社内にある掃除機で実際のテストを行ってみたところ、出るわ出るわ、真っ黒の液体とゴミがホースからどぼどぼ出てくる。
これに関与してたメンバーはかなり興奮した。うん、これはTV通販向きじゃないかな。実際に、ライブでホースの洗浄して、どばどばこんなゴミや埃が出てきたら、すごいインパクトなんじゃなかと。
これは行ける!と盛り上がったのも束の間、その後、テストした掃除機がことごとく故障してしまった。なんてことはない。原因は、ホースの内側には、むき出しの電線が通ってて、電線が濡れた状態で、スイッチを入れてしまったのでショートしてしまったということのようだった。
ホース内にむき出しの電線が通ってるなんてことは、その時初めて知ったことだった。
ホース内が濡れてしまうと、乾燥させるのも大変だということで、それで考えだしたのが「泡」の力だったわけだが、泡を使ってても、当然、多少の水はホース内に付着して残る。
というような大失敗があった。 社内的にはけっこうなリソースを使ったプロジェクトだったし、外部パートナーにもかなりの協力をしてもらったが、ものすごく基礎的ところで、そもそもちょっと調べたらわかることを見逃してたが故に、こんな失敗を招いた。
「失敗しないように」を突き詰めていくと、新しいことは生まれ難くなる
で、こんな失敗があるとして、この失敗を批判するような会社だと、どうなるだろうか。「少なくとも試作前に、ホースの構造などぐらいは調べておくべきだろう」とか、そういうことを言うような会社だとしたら….
おそらく、こういう失敗をなくそうとしだすと、そこに様々な手続きやプロセスを設けることになるんじゃないだろうか。事前の調査とか企画書が必要になって、さらにそれを多人数で評価・チェックするために、手続きが生まれて、、、、
二度と同じような失敗を繰り返さないようにしよう、とそんな風にしてしまったら、二度と同じ失敗を繰り返さないどころか、新しく思いついたアイディアを実現しようという気を社員から奪い去ってしまうことになりかねない。
もちろん、最初に或る程度精査は必要だ。でも、それも行き過ぎると、結局、何をつくるにしても、手続きが大変、といことで、作ろうとする気そのものも奪ってしまうように思える。
なので、うちでは、この手の失敗とかについて、何ら問題にしない。むしろ、そういうアイディアを思いついたこと、それを形にしようとしたことに対して、評価されるべきことだとしている。ダメなのは、何もしてないやつか、失敗した途端、誰かに責任を転嫁するやつだ。失敗しても、それをきちんと認め、最後まで見届けるならば、誰も、その人を無責任だとは思わない。
商品のアイディアや市場を見付ける、ということよりも、思いつきを形にしやすい環境を作り、言い方は悪いですが、「数打てば当たる」を実践したほうがいいんじゃないか。そんな風に考えている。
(ちなみに、実は、掃除機ではダメでしたが、この時試作したものは、別のところで使えそうとうことで、商品化に向けて今、いろいろやってたりします。)