木村石鹸

開発依頼書がなくなったら商品化数が5倍ぐらいになった話

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稟議書がなくなったという話はこちら (意思決定や判断はできるかぎり現場近くで 組織にあまり複雑なルールを持ち込みたくない) に書きました。似たような話なんですが、今回は、開発依頼書がなくなったという話です。

 

■木村石鹸にあった「開発依頼書」とは?

うちには、営業が当時の製造企画部という製品開発を行う部門に、開発依頼書という所定のフォーマットの書類を提出して開発をお願いするというルールがありました。ありました、と書いたのは、今はもう誰も使っていないからです。

 

開発依頼書はこんな感じのものです。

 

開発依頼書

 

まぁどこにでもありそうな普通のものです。こういう手続きを導入してる会社は少なくもないでしょう。

多分、もっと厳密なプロセスや書類が必要なところの方が多いんじゃないでしょうか。こんなレベルで開発ができることがむしろすごいと言われるかもしれません。

 

■開発依頼書が導入されたのは、たぶん商品をもっと効率よく作りたいから

こういうルールが設けられたのも、色々経緯があったのだとは思います。例えば、すごく内容が曖昧な状態で開発依頼が来て、何度も確認取ったり、手戻りが発生したとか、そうやって開発したサンプルが全然活用されなかったとか、依頼はしたけど、その後放置されたとか。ルールが導入された経緯を僕は知らないのですが、だいたいこういうものが使われ出すのは、開発側が依頼側に振り回された嫌な経験に基づくんじゃないでしょうか。

そもそもは商品化率(処方開発したものが商品化される率)を上げていくための仕組みや手続きだったんじゃないかと思います。

 

商品開発

 

でも、僕は、この手続きやフォーマットがあることで、商品が生まれにくくなってる、商品開発のハードルがあがってるように思えたのです。開発依頼書があることのメリットよりも、デメリットの方が大きくなってるように思えたのです。

 

 

■開発依頼書があることの弊害

こういうものは大抵の場合、ルールとかフォーマットがどんどん支配力を高めていくというか、面倒くさい方向に進化(劣化)していくんじゃないでしょうか。よくわからないけど、そういう決まりになってるからとか、きちんと書かないやつが出てきて、そういうのを取り締まるために、何文字ルールができたり、抽象的なことばでなく、具体的な数値や製品名が必要とされるようになったり。

また、このような手続きは、営業の役割、開発の役割にかなりはっきり線を引いてしまいます。ここまでは営業がやる、ここからは開発がやるという具合に、役割とフローが固まってしまいがちです。

 

 

ルールや役割の線引き

 

でも、実際の商品の開発は、そんなにすっきり単純なものではないと思うのです。それは自社商品だろうが、OEMで他社ブランドの開発・製造を請け負う場合でもです。すごくぼんやり、曖昧なところから、いろいろな情報やアイディアや条件が肉付けされていきながら、商品が生まれていく。商品開発ってそんな感じじゃないでしょうか。そういうダイナミズムが商品開発の面白さの一つでもあると思うのです。

そもそも開発において、一番自由度があるのは、企画のところです。だから商品開発において一番労力を投入すべきなのは、企画やコンセプトづくりの段階です。

ところが、開発依頼書を介する開発フローは、その企画領域をほぼ各案件の営業マンがやるものとして位置付けてしまい、線を引いてしまいます。開発依頼書をきちんと作るのが営業、開発依頼者の中身を作るのは開発部、みたいな感じです。

 

■僕は開発依頼書に何も書けなかった…

依頼書を書く

 

僕が木村石鹸に来た時も、開発依頼書はふつうに使われてました。

僕も商品でこういうの作りたいなぁと考えたものがあって、開発依頼書を書こうとしたんですが(実際書いたこともあります。)、どうも殆どの項目を埋めることができなかったんです。よく分からないことがいっぱいで。

 

開発依頼書は、お客さんから明確なオーダーがあるものについては、まだ書きやすいですが、そもそもオーダーがない、自身で思いついた商品などは記述しにくいし、開発依頼書があることで、ちょっとしたお願いとかがすごくし難い状況を招いているんじゃないかと感じたのです。

 

わかりますかね? 手続きがあるから依頼しやすいという側面も無きにしもあらずですが、「公式感」というか、依頼書の存在が仰々しさを醸し出してしまって、「ちょっとした相談」とか、面白いそうなこと思いついたからできるかどうか試して欲しいな、みたいなものってすごくお願いしにくいわけです。

僕はこの会社の強みは、開発部隊とと製造部隊がすごく近いことや、小ロットで柔軟な対応ができることだと思ってんですが、開発依頼に基づく、開発プロセスは、なにか商品を作るというところのハードルをすごくあげてしまってて、結果的に、自社の強みがうまく使えない状況を生み出しているように思えたのです。

 

■そこでやってみたこと/会議で議論&技術が営業に同行する

そこでやってもらったのは、営業は開発依頼書なしで、直接、開発に相談しにいく、ということです。しかも、企画の早い段階から相談する、これを営業にお願いしました。

そのためには、営業の場に、開発の人間を連れて行く、ということも積極的にやってもらうよう依頼しました。

開発の方も、開発依頼書でのやり取りよりも、実際にお客さんの話を聞いたほうが早い、現場を見れたほうが早いと思ってたところもあって、喜んで協力してくれました。

(普通の会社だと、このへんはかなり難しいと思うんですね。その意味では、うちの開発陣はそもそも物凄く柔軟性が高かったということになるでしょうか)

 

開発の人間が営業の場に参加する機会が増えるにつれ、企画が実商品に繋がる話が一気に増えたように思えます。良くも悪くも、早い段階から技術的な可能性などを議論できるようになったのが要因でしょう。また、技術的視点が入ることで企画してたものとは別の企画が生まれたり、企画の幅が広がったということもあると思います。

 

会議

 

次に、営業、開発、製造が一堂に集まって、現状動いてる開発案件、依頼を受けたもの、相談、営業状況を全部一緒に確認する会議を毎週一回やってもらうことにしました。そこでこんな相談がある、あんな相談があるってのも投げて良いことにしたのです。

そこでは開発依頼書などは必要なく、相談を受けてきた人間が直接その内容をさらけ出し、それに対して、開発や製造、あるいは営業もあーだこーだと話をします。基本的には、ほぼ全ての案件がその会議で可視化されるようにしました。

(僕は最初は会議に出てましたが、出てると色々言いたくなるので、今は会議には出てません。なので、どんな案件が動いてるのかは正直よくわからなくなりました。)

 

というような取り組みをお願いするようになってから、営業と技術は、商品についてかなり初期の段階からコミュニケーションを取るようになりました。

 

■商品化数 年間10アイテムが、50アイテムを越えるように

そういう取り組みが効果を出し始めたのは、たぶん半年から1年ぐらいでしょうか。

開発依頼書は全く使われなくなりました。使うなというルールを作ったわけでもなく、明示的に廃止を宣言したわけでもないのですが、今は誰も使ってません。

 

劇的に変わったのは、生み出す商品の数です。

それまでの木村石鹸での年間の新商品開発数は10前後でした。ほとんどがOEMの開発です。それが、この2年は自社ブランドものも始めたということもあるのですが、昨年は50アイテム、今期は60アイテム近くまで増えてます。

商品数の増加

 

OEMで製造するアイテム数も大幅に増えました。OEMの場合は、基本、買取りなので、製造アイテム数が増えれば増えるほど、当然、売上も伸びることになります。数打てば当たるではないですが、当然、OEMでもアイテムが増えると、中には大ヒットにつながる商品もでてきて、そういうものも含めてここ2年の木村石鹸の成長を支えてくれるものになりました。

 

もちろん、商品化したアイテム数が増えれば、それで良いかというと、そんなことはなく、効率やら在庫やら、必要用原料やら、アイテムを増やすということはビジネス的にマイナスの影響も多いわけです。

 

でも、僕はここしばらくは一旦、とにかく商品をつくる、ということを最も優先順位の高い目標に置いてました。商品は売れる売れないだけでなく、メディア的な側面もありますし、商品ができることで、営業も活発化します。技術も自分の手がけたものが形になることはモチベーションアップにもなるし、製造も稼働があるほうが、投資はしやすくなります。

 

この2年で、木村石鹸は、新しい商品を生み出していける地力みたいなものはしっかり身についたのかなぁと感じてるので、来期以降は、また別の課題に取り組んでいかないとなと思ってます。今度は、売れない商品などを切り捨てていくとか、在庫をどう整理していくかみたいなところに取り組んでいく必要があるのかなと….

 

新しいもの好き。ちょっと変わったものを生み出していきたいです。

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